スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナへF-16供与が決まったが、実戦化までどうするのか、戦場に登場したらどんな変化を生むのか

 F-16 Block 70. Image Credit: Lockheed Martin.

F-16 Block 70. Image Credit: Lockheed Martin.


ウクライナにF-16戦闘機を送ればあらたに2つの問いが出る: F-16戦闘機がキーウで実戦化するまで何をすべきか、紛争にどんな影響が生まれるのか


 クライナからの第4世代戦闘機の供与要請に抵抗してきたバイデン政権が、欧米同盟国によるウクライナへのF-16供与計画を明らかにした。ウクライナ空軍パイロットが米空軍の訓練を受けた後(防衛専門家によると、このプロセスは楽観的に考えても約4カ月かかる)、オランダが戦闘機の最初の供給国になると伝えられている。

欧米がウクライナ軍への高価かつパラダイムを変えそうなツールや能力の提供を拒否した後、それを正当化する明確な戦略的きっかけもなく突然考えを変える事例が続いている。一見すると、米国とパートナー諸国は、非公開情報をもとに意思決定をしているようだ。これは合理的な推論だが、ロシアの侵略からウクライナの防衛を支援し続けるバイデン大統領府の効力を弱めているのも事実だ。ウクライナがこの紛争を終結させる方法について、ワシントンやNATOに一貫した戦略がない。

 F-16をウクライナに送ることで、簡単に答えの出ない2つの疑問が生まれる: F-16戦闘機がキーウの在庫になるまでに何をすべきか、そしてこの紛争で次に何が起こるのか。


ウクライナへのF-16: さて、どうする?

F-16供与は、ウクライナが待ち望んでいた反攻作戦に何の影響も与えないことは明らかだ。ゼレンスキー大統領によれば、天候、訓練、そして「ウクライナ人の犠牲増加を防ぐ、西側の武器が不足している」ことを理由に、反攻は延期されていた。ウクライナは、戦術的な成功を収めるため500億ドル以上の軍事援助を受けている。長距離砲、主力戦車、高性能ミサイルなどは、最も価値のある資産の一つだ。

 ウクライナの春がぬかるんだことが、反攻を遅らせた主な原因だ。しかし、ロシアは、バフムート、セヴァストポリ、ケルソンといった支配地域を強化するためなら費用を惜しまない。

 ウクライナに最新鋭の戦闘機を提供することで、モスクワに脅威を与えることは有益だ。F-16の到着は、残忍な砲撃で紛争線が固まりつつある今、ウクライナにとって突然の決定的な変化をもたらす。しかし、航空機が到着するまでの具体的なスケジュールは未定だ。ウクライナ軍パイロットをアメリカのシステムで選抜し、移籍させ、訓練するにはかなりの時間がかかる。また、ウクライナのパイロットがソ連式のエイビオニクスとフライト・ドクトリンで飛行キャリアを積んできたため、転換プロセスは複雑なものとなる。

 敵に自分の目的を推測させ続けることには価値がある。戦略は、戦場の状況や目的の変化に応じ、常に適応し進化する。しかし、明確な目的へのコミットメントが必要だ。1年以上も拒否していた戦闘機をウクライナに送ることは、ウクライナの主権領土の勇敢な防衛を支援するとの西側諸国の明確な目的が欠如しているのを物語っている。

 F-16の配備は、ウクライナにとって今週も、来月も、あるいは今年も、何の変化も産まない。しかし、ロシアにとっては、2023年の残りの期間の見通しを明確に理解することができる: ウクライナに有利なパラダイムへ恒久的に変化する前に、戦いにすべてを投じるのだ。この紛争の代理人的な性質が、不利な結果を強いることになる時期がある。モスクワの後退を徐々に認識した西側諸国は、シナリオに影響を与える他のアクターの能力を無視した戦略的ナルシシズムのアプローチをとっている。


次はどうなる?

西側諸国が次に越えることになるプーチンのレッドラインは何だろうか。戦闘機がそのラインとなるはずだった。

 まったく無謀で無鉄砲な考えがある。また、それほど愚かではないものの、この戦争を大きく拡大させる危険性をはらんでいるものもある。西側諸国の軍隊が、前線から遠く離れたウクライナ国境を越え始める日がくるだろうか。その場合、東部戦線からの距離は安全の保証にならない。ロシアのキーウへの攻撃は続き、同時に謎の攻撃がモスクワにダメージを与える。NATO軍が次に来るのであれば、エスカレートへの道は遥かに遠のくことになる。

 今、より具体的なのは、アメリカ製の戦闘機を前線上空に投入することで、この戦争が完全にアメリカ化するリスクだ。F-16戦闘機が前線最新鋭の兵器を打ち込む様子や、ウクライナ軍の操縦するアメリカ軍機がロシア国内の標的を爆撃する様子を見れば、西側諸国がいかに報道陣に説明し透明性を確保しても、ロシアの情報操作に協力することはできないだろう。近代的な戦闘機、特にアメリカの航空機を送ることを躊躇したのは、この恐怖に根ざしていた。

 ウクライナの自衛と自決に対する西側民主主義諸国の決意とコミットメントは、いかなる時点でも衰えたり揺らいだりしてはならぬ。この分析は、そのように主張しているのではない。キーウの生存とモスクワからの独立を確保することは、ルールに基づの秩序の戦略的野心の範囲内にある。この秩序は、独裁的な大国からの侵略を抑止し、NATOやその他の民主的な国際体制を強固にし、平和国家すべてに集団安全保障を確保するものである。

 しかし、今回の突然の、そして一見空虚な政策の逆転は、戦術的な成功をすぐに収めることができない。突然の決断の理由は、不明確な目的と明確な戦略目標の欠如で不明瞭なままだ。それらの目標が確立され、それを達成する方法と手段が定義され理解されるまでは、このジェスチャーはウクライナの防衛を促進せず、むしろモスクワの不規則で不安定な計算に根本的に影響を与える可能性が高い、中身のない政策なのである。■


Ukraine Is Getting F-16 Fighters: What Happens Next? - 19FortyFive

By

Ethan Brown


Ethan Brown is a Senior Fellow at the Mike Rogers Center for Intelligence and Global Affairs at the Center for the Study of the Presidency and Congress. He is an eleven-year veteran of the US Air Force as a special operations joint terminal attack controller with six deployments to multiple combat zones. He can be followed on Twitter: @LibertyStoic.



コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...