スキップしてメイン コンテンツに移動

ロシアとウクライナで戦争の意味がここまで違う。ウクライナ悲観論は大事な点を見逃している。

  クライナの反攻が最近失速しているとの指摘が一部論者から出ている。ウクライナの領土奪回は、キーウ、ハリコフ、ケルソン周辺での以前の戦果より小さい。ウクライナ側が領土を大幅奪還できるか疑問視する者さえいる。

これら論者は、この紛争が始まって以来、ロシアとウクライナは根本的に異なる2種類の戦争を戦っていることを理解していない。ウクライナ側は、ロシアの誇らしげな成功の定義を模倣しようとしたことはない。それどころか、ロシアの見出しへのこだわりを利用して大損害を与え、自分たちの勝利を早めることに余念がない。

ロシアにとっては常に広報戦だった。ウクライナがNATOに加盟する可能性への不満や、ウクライナのユダヤ系大統領が「ナチス」であるという虚偽のプロパガンダ以外に、ロシアがウクライナに是正を求める実質的な不満はなかった。それどころか、プーチンは劣等民族と見なした民族に対するロシアの人種的優位性を再確認し、ロシアで横行する腐敗が生み出した苦難からロシア国民の目をそらすため、愛国心を煽ろうと戦争を始めたのだ。

そのため、ロシアは代償に目をつむり自画自賛を追い求め続けている。プーチンが戦略上取るに足らない小さな都市バフムートに執着すると、軍指揮官はなんとしてもこの都市を占領するよう命じられた。そのためにロシアはウクライナの5倍の兵力を失い、血みどろの市街戦を7カ月も続けた。その過程で、ロシアは人海戦術で何千人もの徴用兵の命を落とした。

ロシア軍の損失は再び膨れ上がり、指揮官たちは取るに足らない集落を 「何としても 」維持するよう命じられていると伝えられている。

一方、ウクライナにとっては、常に国家存亡を賭けた戦争だった。ロシアはウクライナを攻撃しないという約束を何度も破ってきたため、ウクライナは、ロシアを打ち負かすことでしか安全保障は得られないと理解している。ロシアが1994年にウクライナのものと認めた領土を維持することを許せば、プーチンは軍備を整えた後に再び侵攻してくるだろう。そのためウクライナはすべての領土の奪回に集中している。 

ウクライナの戦略で重要な部分は、ロシアに不釣り合いな損失を与えることにある。プーチンがバフムートに執着していることを認識すると、ウクライナ人はゆっくり戦いながら撤退を開始し、ロシアに莫大な犠牲者を出しながら、自分たちの命を守るため譲り渡した。プーチンのプライドが、バフムート防衛に戦略的価値よりもはるかに多くの戦力を割かせることを知っているからだ。

ウクライナにとってもう一つの鍵は、無能なロシアの兵站を絞め殺すことだ。ロシアのキーウとハリコフへの初期の侵攻を鈍らせた後、ウクライナ側は侵攻者を強制的に立ち退かせるかわりに、ロシア側の食糧と弾薬の入手手段を断ち、最終的にロシアに撤退まで追い詰めた。同様の方法でロシアをケルソンから追い払った。

ウクライナの反攻は、強固なロシア陣地に対してコストのかかる全面的な正面攻撃を仕掛けるのではなく、不釣り合いな損失を与え、ロシアの兵站を破壊することに再び重点を置いている。1991年にサダム・フセインをクウェートから追放するために、アメリカは最初の兵士が国境を越える前に、イラクの兵員、弾薬庫、補給路を1カ月超にわたり集中爆撃していた。

ウクライナにはそれができない。西側諸国が先進的な軍用機の供与を拒否しているからだ。長距離ミサイルの供給も限られている。

したがって、ウクライナ側はロシアの部隊、装備、弾薬庫を、ウクライナ側が持つミサイルの射程内に入るほど誘い込む必要がある。そのため、ウクライナ軍は南部で十分に前進し、ロシア軍の資源を破壊している。そして、前線全体で圧力をかけ続けることで、ウクライナ側はロシアに全予備兵力の投入を余儀なくさせている。ロシアはプーチンの人為的な期限に間に合わせるために訓練将校の多くを戦場に急行させ、失った。

ウクライナ側は、ロシアが占領したクリミアへの物資の供給を妨げている。半島に入る唯一の道は橋と船だが、ウクライナ側はその双方を攻撃している。また、占領地南西部へ唯一の陸路鉄道も寸断された。ロシア軍は、ウクライナ軍が攻撃しても効果的な砲兵支援が得られなくなってきたと苦言を呈している。

プーチンは、少数民族やイスラム教徒をウクライナで不当に死に追いやることで、ロシアのエリート層の支持を得てきた。それが変わり始めたのは、6月のワグネル・グループによるクーデターが失敗に終わったときだ。プーチンは、クーデターに加担した、あるいは兵站が不十分だと公に訴えたとの理由で、多くのトップ将官を交代させた。ロシア国防省への度重なる無人機攻撃は、プーチンの無敵神話に穴をあけた。

プーチンの唯一の望みは、西側諸国が戦争に飽きウクライナ支援を打ち切ることだ。もしこちらが忍耐を示し、ウクライナ人にロシア式の広報戦を求めなければ、ロシアの兵站、ロシアの前線防衛、ロシアの体制が順不同に崩壊していくことが予想される。プーチンの醜悪な侵略をきっぱり打ち破れるのであれば、その価値は十分にある。■

Ukraine and Russia are fighting two different kinds of war | The Hill

BY DAVID A. SUPER, OPINION CONTRIBUTOR - 08/10/23 12:30 PM ET

David A. Super is a professor of law at Georgetown Law. He also served for several years as the general counsel for the Center on Budget and Policy Priorities. Follow him on @DavidASuper1.


コメント

  1. ぼたんのちから2023年9月7日 15:39

    連続してウクライナ戦争についての記事が続きました。一見すると異なる主張をしているように見えますが。実は同じことを念頭に置いているようです。
    それはウクライナ戦争がこれからも長く続き、ウクライナとロシアは共に和平を結ぶ気などさらさらなく、共に大きな人的損害をこうむり、それに耐えられなくなる方が敗北すると思えます。
    個人的には、年初に和平を結ぶと予想しましたが、残念ながら外れるでしょう。
    中途半端な和平や休戦は、再度のより悲惨な戦争を招くと予想します。どちらかの政権が倒れるまで戦争は続くでしょう。
    また、ウクライナは善戦し、現在の攻勢の成功を祈っておりますが、現在の見通しより短期に戦争を終わらせるためにロシア領内への戦略的攻撃をもっと大規模に行うべきと考えます。
    ロシア経済を支える、原油・天然ガス貯蔵・出荷設備や、発電・送電設備も攻撃すべきです。
    ロシア国内の厭戦ムードをたかめ、反プーチン運動が強くなることが、戦争終結の近道に思えます。それまでウクライナを支えることが肝要です。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...