2021年1月2日土曜日

1月のイランによる不穏な動きを牽制する米軍部隊の動きに注目。1月3日ソレイマニ殺害から一周年。

 A U.S. Air Force B-52H Stratofortress from Minot Air Force Base.

 

米空軍B-52Hストラトフォートレス(ノースダコタ州マイノット基地)がKC-135ストラトタンカーから米中央軍管轄区域上空で空中給油を受けた。Wednesday, Dec. 30, 2020. (Senior Airman Roslyn Ward/U.S. Air Force via AP)



空軍戦略爆撃機がペルシア湾上空を12月30日に飛行し、12月で二回目の展開となった。力の誇示で米国はじめ中東同盟国へのイランの攻撃を抑止する狙いがある。


今回のB-52二機による飛行は、イランが数日以内にも米国等の攻撃準備に入ったとされる中での対応と匿名米軍高官は解説した。


B-52編隊はノースダコタのマイノット空軍基地を離陸し、周回飛行し帰投した。イランが2020年1月3日のカセム・ソレイマニ司令官殺害の報復軍事行動に踏み切る事態を米国は危惧している。当時は殺害の5日後にイランはイラク国内基地を弾道ミサイル攻撃し、およそ100名の米軍人が脳震盪を訴えた。


緊張をさらに高めたのがイラン支援を受けたシーア派戦闘員が在バクダッド米国大使館を先週ロケット弾攻撃したことで、死傷者は発生しなかったがトランプ大統領はツイッターでイランに以下警告した。


「イランに忠告する。米国人が一人でも死亡すれば、イランの責任である。よく考えることだ」


エスカレーションで大規模戦に発展する可能性があるため、米国はイランを抑止することとした。双方の戦略をさらに複雑にするのがワシントンの政権移行で、次期政権がイランには新しい対応を模索する可能性がある。バイデンは米国を2015年核合意に復帰させるとしている。


今回の爆撃機飛行について米中央軍は防御的な対応と説明している。

「米国は戦闘態勢を中央軍管轄地区で維持しており、いかなる敵対勢力も抑止する。また米国あるいはその権益を攻撃する動きがあれば即座に対応できる態勢にある」とあり、イランを名指しで呼んではいない。


この発表に先立ち、匿名の米軍高官は米情報機関がイランによる「相当の脅威」の兆候をつかんでおり、ソレイマニ殺害一周年にイラク国内の米関係施設へのロケット攻撃を行う計画があるという。


イラク駐留米軍は2,500名に縮小中でトランプ大統領は1月15日までの実施を求めている。米国は同時にイランが「より複雑な」攻撃を中東各地の米国関連施設に対し計画中との兆候を掴んでおり、ソレイマニ殺害後でもっとも深刻な事態だと米軍高官は述べている。イランの高性能兵器がイラクへ搬送されており、シーア派指導者がイランのクッズ部隊関係者と会見したと同高官は説明。ソレイマニが司令官だった部隊だ。


また同高官は経済面の目標にイランが注目しているとも語り、2019年9月のサウジアラビアの石油精製施設へのミサイル・無人機攻撃に言及した。イランは当時関与を否定したが米国はイランを攻撃の主犯として非難した。


米軍はここに来てイランの動きを抑止する各種動きを展開しており、イランを挑発することは念頭になく、また指示設けていないと公式に説明している。


先週は米海軍の誘導ミサイル潜水艦一隻がホルムズ海峡を通過している。ルイジアナのバークスデイル空軍基地からB-52が二機ペルシア湾上空を飛行し、米軍は「プレゼンス」ミッションであり、攻撃ミッションではないと説明していた。こうした動きは米国が同地域を重要視しているあらわれであり、今週再びB-52が投入されたわけだ。


イランとの緊張を高めた事件として11月のモーセン・ファクリザデ殺害事件がある。西側はファクリザデを制裁対象の核兵器開発の中心と認識していた。イランは殺害をイスラエルによるものと非難したが、米国は米国関連施設へのイラン報復攻撃を懸念していた。■


この記事は以下を再構成したものです。


US Bomber Mission over Persian Gulf Aimed at Cautioning Iran

The Associated Press | By Robert Burns 30 Dec 2020

This article was written by ROBERT BURNS from The Associated Press and was legally licensed through the Industry Dive publisher network. Please direct all licensing questions to legal@industrydive.com.

Related Topics: Military Headlines Global Hot Spots Iran Air Force Topics


2020年12月31日木曜日

2020年を振り返る。恒例の人気記事のベスト10です。

 今年もあと数時間となりました。恒例の人気記事のリストです。

まず、今年は10月を境に読者数が圧倒的に増えており、リストも9月までと10月以降の二部構成とします。

第一部 1月から9月末まで

第10位 主張 武漢コロナウィルスは中国共産党体制崩壊の始まりになる 1729

第9位 台湾海峡上空で、台湾機がPRC機を追い払う。その前に米海軍機が台湾島を南北縦断飛行していた 1949 6月

第8位 Ottoのセレラ 500Lは航空業界を一変させる画期的な小型機になる。軍用型も有望。(T1T2共通記事) 2152

第7位 F-3は第6世代戦闘機としてこんな機体になる。2550

第6位 F-3はF-35とこう併用される。2020年、高まるNGFへの期待 2348 

第5位 F-3は国内開発へ舵を切った 2500 4月

第4位 超音速飛行に制限がついたF-35C....問題の山はいつ解決される? 2810 5月

第3位 スホイを勝手にコピーして生まれた中国のJ-15は欠陥艦載機だ 2828 6月

第2位 いずもを正規空母に改装しF-35C運用を可能にしたらどうなるか大胆に想像 2926

第1位 動き始めたReforge構想、まず訓練用F-22の用途変更、しかし各機種でトラブル続出 5186 6月

数字は本日現在のPVです。こうやって見るとF-3へのご関心の高さがわかります。広げると戦闘機ということですね。その意味で8位は異色ですが、一位の米空軍の新運用方針についてにも多大なご関心をいただきました。一方で全く伸びなかった記事のひとつが

金正恩死亡で中国はどう動くのかを予測! 345 5月

で金正恩が死んだというのはガセネタとされているようですね。北朝鮮ではいまもときどき元気な姿が公開され、生きていることになっていますが、同様に同国ではコロナウィルス患者もいないことになっています。李雪主夫人が一切姿を見せていないことも憶測を呼んでいますが、金正恩が生きていない少なくとも脳死になっている可能性は排除できないと思います。同様にここに来て習近平の入院説も飛び交い何かと忙しい東アジア方面です。


第二部 10月以降

こちらは第一位から。

第1位 歴史に残らなかった機体 番外編 あなたの知らない機体 5560 11月

第2位 エンジン換装だけじゃない。B-52はここまで性能向上し、2050年代まで供用される。 4351 10月

第3位 台湾がついに潜水艦国産建造に乗り出した。8隻建造し、2025年に一番艦を就役させる。日本は傍観しているだけでいいのでしょうか。4003 11月

第4位 当選近づく?トランプ集会の上空を万全の態勢で守るNORAD 3724 10月 

第5位 F-15EXの納入に備える米空軍。一方、日本向けF-15JSIはEXの機能ほぼ全部を搭載する構想と判明。ただし、フライバイワイヤを除く。 3363 11月

第6位 低地球周回軌道で一時間以内で世界いかなる場所にも貨物人員を送り届ける....米陸軍がこの構想を実現しようとしている 3286 11月

第7位 中国がカンボジアに海軍基地を確保する動き。札びらで横顔をたたく? アジア太平洋地区への影響は必至だ。 3199 10月

第8位 スイスがF-35A導入へ。スーパーホーネット、ペイトリオットミサイル含め160億ドルを支払う。 3132 10月

三ヶ月分ということでここで止めます。こちらではご関心の幅が広がっているのがわかりますね。特に駄作機が思ったよりも人気を博したのは驚きました。

ブログ開始当初は100PVになればヒットでしたが、いまや一夜で1000PVが普通になってきました。来年はどうしようかと考えています。一つに中国関係の記事を独立させるか、意外に人気がある陸軍装備関係の銃砲や車両をもっととりあげるとか....しかし主力は航空機材とします。みなさまもリクエストがあればお知らせください。


それでは良いお年を。今年の記事はこれでおしまいとします。





これでよくわかる 自衛隊の対艦ミサイル整備の道筋。中国海軍の防御能力を上回る新型ミサイルを順次投入し、抑止能力を高める。日本の軍事力整備を恐れる隣国は完全な誤解。

  イマイチわかりにくかった自衛隊の対艦ミサイル整備の全体像がよくわかります。

 

 

衛省は令和3年度予算で超音速対艦ミサイルASM-3Aの調達費用を計上したと2020年12月25日に発表した。一方でASM-3改を大量配備し、中国の海上兵力拡張に対抗する。同省は新型重要装備品選定結果の一部でさりげなくASM-3Aに触れている。

 

ASM-3 anti-ship missile on JASDF F-2 Fighter

岐阜基地所属のF-2戦闘機がASM-3を2発搭載している。February 2020. Picture by local photographer Takeru Sugiyama.

 

XASM-3 まず航空自衛隊のF-2戦闘機搭載を想定したXASM-3ミサイルの開発が2010年度に始まった。XASM-3は空中発射式対艦ミサイル(ASM)で固体ロケットブースターとラムジェットエンジンを採用しマッハ3超で飛翔するとした。射程200キロ(108カイリ)だった。

 

 

防衛省が発表したASM-3 (改)の運用構想では射程距離の拡大によりF-2は敵防空手段の有効範囲外からミサイル発射できるとする。

 

ASM-3(改) ただし、新鋭中国水上艦で防空性能の高まったため、ASM-3調達は中断し、ASM-3(改)開発を決めASM−3の有効射程を延長するとした。

 防衛省は三菱重工業にASM-3(改)の開発契約を89億円で2020年に交付した。ASM-3 (改)開発は令和2年度から7年度の予定。

 開発の経費と期間を下げるためASM-3と同じ本体とし、重量軽減で射程距離の延長を狙う。

 

 

ASM-3 anti-ship missile on JASDF F-2 Fighter

航空自衛隊岐阜基地のF-2に搭載されたXASM-3。February 2020. Picture by local photographer Takeru Sugiyama.

 

ASM-3A 今回発表のあったASM-3AはASM-3 (改)開発の知見を反映するとあるが詳細は不明だ。とはいえASM-3(改)の開発が今年はじまったばかりであり、有効射程は更に伸びると見られる。

  ASM-3 (改) 開発は ASM-3A 生産と並行で進むに。このためASM-3Aは中国対策のつなぎと考えてよい。

 

対艦ミサイル三種類を運用する航空自衛隊 航空自衛隊は対艦ミサイル新型三種類を運用する。

  • F-35に共用打撃ミサイル(JSM)

  • 改修版F-15J/DJ に長距離対艦ミサイル(LRASM)

  • F-2に長射程ASM-3A


 

ASM-3の試射.防衛装備庁.

 

各種ミサイルを運用する意味 自衛隊が各種対艦ミサイルを運用する理由として各ミサイルの特徴を活かした運用で敵防空体制を突破できることがある。たとえばJSMは海面すれすれを飛翔し敵レーダーでの探知が難しいものの、有効射程はミッションで異なるが100から300カイリと長くない。LRASMは432カイリと長射程だが飛翔は亜音速だ。ASM-3Aはマッハ3程度で敵防空網を突破するが有効射程がLRASMより短い。

 ただし、2種類あるいは全部を投入すれば、敵側は各ミサイルの特徴に応じた対応に追われ、防御態勢を強固にする必要にかられる。

 さらに陸上自衛隊向けに新型長射程ミサイル(2000キロ級といわれる)を防衛装備庁が開発中で極超音速対艦ミサイルあるいは高速滑空弾(HVGP) と呼ばれ、極超音速で高高度を飛翔する性能が加われば、対艦ミサイルが各種揃い、敵艦撃破の可能性が高まる。自衛隊は今後の中国海軍力の成長を念頭に対策を着実に打っている。■


この記事は以下を再構成したものです。日本にいながら防衛装備の開発状況が全体としてわからないのはおかいいですね。2021年は外国報道も使いわかりやすい情報提供に心がけたいです。


Japan to Field New ASM-3A Long Range Supersonic Anti-Ship Missile

Yoshihiro Inaba  30 Dec 2020

Story by Yoshihiro Inaba with additional reporting by Xavier Vavasseur


2020年12月30日水曜日

ドイツ軍がここまで弱体化したのは政治の責任だ。安全保障における軍の役割を軽視すればこうなる。日本も他山の石とすべき。

 

 

 

ルリンのドイツ政府は自国の安全確保も放棄したのだろうか。ドイツ軍の予算不足の状態には驚くしかない。ドイツ軍には戦車、航空機はまともに機能しない装備で一杯だ。

 

今日のドイツ軍は連邦軍と呼ばれ第二次大戦終結10年後に創設された。冷戦の緊張が高まり、東ドイツ、チェコスロバキア、ポーランドに駐屯するソ連軍のプレゼンスが西ドイツ国防軍の創設につながった。

 

連邦軍は世界有数の規模、装備に恵まれた軍に成長し、陸軍師団12個、戦闘機材数百機、水上艦艇、潜水艦を備えた。

 

冷戦が終結し、赤軍が東欧から撤退し欧州の安全保障環境に追い風が吹いた。東ドイツ国防軍と連邦軍が統合され国軍となった。艦艇、機材、装甲車両は75%削減され、国防予算はどんどん低下した。現在のドイツはGDP比1.2%を国防に費やし、NATOが求める2%と差が開いている。

 

 

連邦軍の即応体制の劣化を伝える記事多数が出ている。固定翼機、ヘリコプター、車両で運用中止多数が発生しているのは交換部品不足が原因で稼働率は50%を割る状況だった。

 

ドイツ軍の装備品には世界有数の威力を有するものがあるが、同時に直面する課題にも相当のものがある。以下、正常に作動すれば相当の威力を発揮するものの予算を十分受けていない、あるいは別の問題を抱える5例である。

 

ユーロファイター・タイフーン

英仏独伊西の5カ国が1980年代に共同開発したのが将来型ヨーロッパ戦闘機材FEFAで、これが1994年にユーロファイター・タイフーンになり、ドイツは2003年より導入した。

 

第4世代機ではユーロファイターはおそらく最強の存在だろう。機敏な操縦性、強力なエンジン、AESAレーダー、赤外線探索追尾センサー、AMRAAM、サイドワインダー両ミサイルを搭載する同機は手強い相手だ。対空対地攻撃能力はさらに進化し、非誘導爆弾、レーザー誘導爆弾、トーラス巡航ミサイルを搭載する。

 

ドイツは当初180機導入の計画だったが、2014年に一部キャンセルし、143機にした。2014年10月時点で飛行可能な機材は42機で残りは部品不足で地上に置かれていた。同時に搭乗員の年間飛行時間を半減する扱いにしたのは機体が不安定になる現象への対応だった。

 

ユーロファイター・トーネード

これも英伊独の共同開発で生まれた戦闘機で、低空高速で敵地侵入する構想のトーネードは世界最後の可変翼軍用機だ。ここでも冷戦終結で予算不足状況が続いている。

 

ルフトバフェはIDS(制圧深部侵入型),ECR(電子戦偵察型)を導入し、冷戦時はワルシャワ同盟側の標的特に航空施設の攻撃を任務とした。ドイツ再統一後のトーネードはコソボやアフガニスタン上空で偵察任務についた。

 

ドイツ空海軍で357機を導入したが、冷戦終結で削減され、2025年以降も供用の方針だが、予算不足のため2014年8月時点で89機中稼働可能機材は38機しかなかった。

 

レパードII主力戦車

1970年代にレパードIの後継としてクラウスマッフェイ重機械が開発したレパードIIはドイツ軍の主力戦車だ。戦後ドイツの戦術方針で速力と火力を最優先し、高機動戦車としてヨーロッパ戦場の状況変化に対応する装備品となった。初導入は1979年で、現在も稼働中だが、配備数があまりにも少ない。

 

最新のレパードIIA7は2030年代も視野に入れ、120mm滑腔砲の長砲身型、熱探知装置第3世代型、複合材防御の強化、補助動力だけで電子装置の運用が可能といった特徴を有する。

 

レパードII生産数は2,125両で戦車師団、機械化歩兵師団の12個には十分といえる。冷戦終結と国防予算削減でドイツは戦車部隊のほぼ9割を削減し、現在の連邦軍には225両しかない。

 

G36強襲小銃 

1990年代に連邦軍はヘッケラー&コッホG3小銃を廃止し、G36強襲小銃を導入した。NATO標準5.56ミリ銃弾、30発弾倉、統合光学照準を採用したG36でドイツ歩兵部隊の戦力は増強され軽量化が実現したはずだった。176千丁を調達した。

 

ところが連邦軍はアフガニスタンでG36の命中精度の劣化に気づく。G36は連続射撃で精度が下がる問題があるとわかったが、平時には現れない現象だった。それでもこの問題がなぜ早期に見つからなかったのか理解に苦しむ。

 

国防相ウルスラ・フォン・デア・ライエンは連邦軍は同小銃を用途廃止すると発表した。国防省はHK417強襲小銃600丁の調達を発表した。これもヘッケラー&コッホ製である。

 

371装甲擲弾大隊

装甲擲弾部隊とは連邦軍の機械化歩兵部隊のことでは900名編成の9個大隊に歩兵戦闘車両とMILAN・パンツァーファウスト3対戦車兵器を配備している。

 

この内マリエンブルグ駐屯の371装甲擲弾大隊が2014年にノルウェーでNATO演習に加わった。NATOの迅速展開部隊に指定の同大隊でピストル、暗視装置の不足が露呈した。MG3機関銃が不足し、箒を黒く塗り代用品にした。さらにもっと悪い事実がわかった。同大隊は他部隊から合計14,371点もの装備品を借用していたが、それでも一部装備品に不足があったという。

 

優先度が高いNATO部隊でも装備品14千点が不足というのは連邦軍の内部にある問題が深刻な証拠であり、同盟各国へのドイツの貢献度も疑問視される。■

 

この記事は2015年初掲載された以下を再構成したものです。NATOサミット開催にあわせ発表します。

 

Why Is Germany's Military Weak?

December 27, 2020  Topic: Security  Region: Europe  Blog Brand: The Reboot  Tags: GermanyMilitaryNATOGerman MilitaryRussia

by Kyle Mizokami

 

Kyle Mizokami is a defense and national security writer based in San Francisco who has appeared in The Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and The Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami. This first appeared earlier and is being reposted due to reader interest.


ロッキード・マーティンがF-35の2020年納入実績は121機と発表。年間目標は20機未達。ここにもウィルス流行の影響。

 2020年も残すところ数日となったが、ロッキード・マーティンは本年中のF-35納入は121機の見込みと発表し、年初目標に20機足りなくなる。


コロナウィルス流行で同社もサプライヤー各社含め大きな影響を受け、目標141機を下方修正すると早くも今年上半期に発表していた。


RAF F-35B Fort Worth

Source: Lockheed Martin


この通りだと2019年納入実績の134機から13機減る。▼F-35の納入は通算600機超で運用中の各機合計で345千時間のフライトをこなしている。▼直近では英国向けF-35Bが3機引き渡された。▼各機はテキサス州フォートワースからノーフォーク州マーハム空軍基地までフェリー飛行で11月30日に到着した。▼同国は同型機21機を発注している。


英企業はF-35の15%相当を製造しており、中でもBAEシステムズロールスロイスが大きな比重を占める。▼KPMGの分析ではF-35事業で英国に406億ポンド(552億ドル)の経済効果が2007年から2038年までに実現するとある。


英国が供用中のF-35各機が合計8,500飛行時間を計上し、パイロット46名、整備要員610名を養成したという。


英国についてロッキードは追加発注で合計138機になると期待している。■


この記事は以下を再構成したものです。


F-35 deliveries to reach 121 units this year, Lockheed says

https://www.flightglobal.com/defence/f-35-deliveries-to-reach-121-units-this-year-lockheed-says/141668.article

By Craig Hoyle18 December 2020


2020年12月29日火曜日

2020年は米国が中国、ロシアとの戦闘想定に大きく舵を切った年。新海洋戦略の一端で、特殊作戦部隊にも新しい役目が想定されています。

 

国間戦闘を想定する米国の新海洋戦略で特殊作戦部隊にも新しい役目が与えられる。

夜闇に隠れ暗視装置で小型ボートで高速襲撃、水中を泳いで移動し上陸する、偵察任務を敵地で展開する、敵地で人質を奪還、重要地点を襲撃する...海軍、海兵隊の特殊作戦部隊Special Operations Forces(SOF)に大規模海洋戦でも高リスクミッションが想定されている。

 

イラクやアフガニスタンで展開されてきた作戦イメージから海軍のSEALsや特殊海軍戦闘部隊は戦闘員相手の戦闘で経験が豊かと思われがちだ。特殊作戦部隊全体としてはそのとおりなのだが、戦闘立案部門は今後発生する可能性のある大国間の海洋武力衝突でも特殊作戦隊員に重要な役割を期待している。

 

新しい想定に焦点を当てた米海軍、海兵隊、沿岸警備隊の新海洋戦略では特殊作戦部隊に脚光を当て、海軍作戦の基本と特記している。

 

戦略方針では「特殊作戦部隊は優位性が確立できない、あるいは敵が侵入を許さない場面での作戦環境整備に役立つ。各隊員の技能とアクセス能力により海軍は脆弱な他部隊を守り、海軍部隊を敵支配地域内に進出させられる」とし、「海上優位性...統合全ドメイン海軍力で勝つ」の表題がついている。

 

 

海兵隊はMEUSOC(Marine Expeditionary Unit, Special Operations Capable特殊作戦遂行可能の海兵遠征部隊)で情報活動、救助あるいは強襲の小規模作戦を実施する体制を整えている。

 

特殊作戦を遂行可能な海兵隊員チームを敵地内に投下し、情報収集あるいはヒットアンドランの強襲作戦を行わせる構想だろう。

 

米海軍艦艇には特殊作戦ミッション支援の改修を受けたものがある。たとえば全長11メートルの硬式空気膨張型輸送艇の搭載、救難ミッションの支援、負傷者搬送、小規模ながら秘密のうちに一撃を加えるミッションを想定している。

 

ヴァージニア級攻撃型潜水艦にもSOFミッション想定の改良が加えられている。供用中のブロックIII艦にはロックアウトトランクと呼ぶ別区画が艦内にあり海水を引き入れSOFダイバーが偵察あるいは強襲ミッションに潜水したまま出動できる。ステルスで隊員を敵地に送り込むのが可能となり、その分ミッションの成功確率が高まり、特殊作戦部隊ならではの訓練が報われることになる。■

 

この記事は以下を再構成したものです。


Great Power War: How U.S. Special Operations Forces See the Future


December 27, 2020  Topic: U.S. Special Operations Forces  Blog Brand: The Buzz  Tags: U.S. Special Operations ForcesSpecial OpsRussiaChinaMilitary

by Kris Osborn

 

 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Masters Degree in Comparative Literature from Columbia University.


2020年12月28日月曜日

海上輸送力・兵站の軽視が米軍の南シナ海作戦を困難にする。中国の拡張を食い止めるため新たな投資が必要だ。

 

CH-53K キングスタリオンが共用軽戦術車両を吊り下げる能力を実証した。フック一つで重量l18,870ポンドの同車両を100フィート上空まで移動させた。 (U.S. Navy)


戦場で秩序・無秩序を分ける一線は補給活動にある (孫子)


 勝利の裏には検討に検討を重ね迅速対応した兵站活動があった。1944年のノーマンディ上陸作戦が好例だ。逆に補給をろくに立案せず大敗を喫したのがナポレオンのロシア侵攻だ。1959年、当時のNATO副参謀総長ヘンリー・エクレス海軍少将は兵站をこう定義した。「補給活動は一国の経済力と自国軍の戦術作戦を結ぶ橋である」。この橋の整備・強化につとめないと装備、糧食が不足し勝利はおぼつかなくなる。

 広大な海域に数千もの離島が点在し、インフラが未整備に近いアジア太平洋戦域では米本土と域内展開する米軍部隊を結ぶ課題が多数ある。各部隊は「一国の経済」とは世界最大の大洋で切り離されており、中国は東シナ海、南シナ海の裏庭で影響力を強め、領有権主張も一層激しくなっている。インフラの欠如により大型輸送機や大型補給艦が投入できない。

 中国と開戦となれば兵站活動が難題になるのは避けれない。

 

地理

中国の領土拡張運動の中心はプラトリー、パラセル両島しょにあり、豊富な水産資源、石油ガス埋蔵量が戦略的な狙いだ。また同地域を毎年数兆ドル相当の海上輸送が通過する。こうした島しょは135万平方マイルに数百もの小島・珊瑚が点在し、インフラは皆無に近い。

 CIA調べではスプラトリー諸島に飛行場は8箇所、ヘリパッド5箇所あるが港湾施設はない。中国軍はパラセルのウッデイ島に人工港と飛行場を構築し、人民解放軍1000名が駐屯している。

 中国海軍が隻数で米海軍を上回るまでになった中で、米国は新型垂直離着陸機や海上輸送力の強化でギャップを埋める必要がある。

 

脅威

中国軍は西太平洋での補給活動の重要性を理解している。東シナ海、南シナ海への進出も補給面の優位性を確立する狙いがある。同海域は中国本土への食料、燃料の補給路であり、ここだけで世界貿易の約2割をコントロールできる。南シナ海での中国の野望を放置すれば、同国の影響力が拡大し国際海洋法は形骸化する。

 シンクタンクRandコーポレーションの2020年研究成果では「(中国軍による)占拠を許せば、中国は数千マイル南方間で影響力を行使し太平洋への兵力投射が可能となる」と結論した。

 これにより域内の同盟国協力国が困るだけでなく、これまで対立と無縁だった海上交通路も安全でいられなくなる。とくに中国が接近阻止領域拒否の傘を広げるのが最大の脅威となる。

 

課題

 A2/ADの傘では長距離センサーとミサイルが中核だが、2019年1月のMedium記事では対抗策として「部隊を分散させ兵力を多数地点に展開する」とあった。米装備へのリスク分散とともに影響力を拡散するねらいがある。しかし南シナ海で部隊を移動し分散させるには対応力に富む輸送艦多数と大型垂直離着陸輸送手段が必要だ。

 残念ながら海上輸送部隊は長年に渡り軽視され、予算は空母潜水艦に回されてきた。もちろんこうした艦種が米国に戦略優位性を生んでいるが、糧食や補給部品がなければ作戦継続も不可能だ。海上輸送力整備の軽視で対応力低下が避けられない。

 1月のNational Defense記事が最近行われた海上輸送演習が取り上げ、「輸送艦で対応準備できていたのは64%に過ぎず、期待通りに機能したのは4割未満だった」とある。記事はさらに「大国同士の戦闘になれば海上輸送力が動向を決めるので、これは大問題だ」と指摘した。

 幸い10月16日のForbes記事では海上輸送力整備は中程度の予算で可能であり与野党も国防長官マーク・エスパーを支持するとあった。実現までの道筋は①即応予備部隊中で最新の艦艇の供用期間を延長する。②海外の中古船舶を購入し改修する。③国内造船所で新型補助艦艇を建造する、の3つだ。

 

陸軍の役割

陸軍は地上部隊とされてきたが2014年のRandレポートでは統合部隊の支援が「中国との大規模戦闘では陸軍の最重要任務になる可能性があり、現在の陸軍の装備運用方針では不十分になる」で結論付けていた。

 ただしインフラ未整備の環境では輸送艦に大型垂直離着陸機を搭載する必要がある。陸軍の大型機材はCH-47で、陸上作戦では実用性は実証済みだが、艦上運用では不利な点もあり、空中給油能力の欠如のため航続距離が限定される。

 海兵隊は次世代大型機CH-53Kの運用開始に向け準備を進めており、海上試験も今年6月に完了した。CH-53KはCH-47に対し海上分散地点への運用で有利となる。輸送力は50%多く、空中給油が可能で、艦載運用の想定でフライバイワイヤーのデジタル設計になっている。

 陸軍ではCH-47が引き続き大型機の中心だが、艦上運用可能な大型機があれば陸軍の輸送能力に大きな貢献となり、補給上のギャップも埋まる。

 南シナ海で補給活動のギャップが続けば、中国の拡張リスクも高まる。拡張を許せば中国が覇権を強化し、米国や同盟国が代償を払わされる。

 強靭な兵站インフラ構築は短期では不可能だ。幸いにも戦略海上輸送力の再構築方法は確立されており、陸軍のCH-47をCH-53Kに更改すればよい。ヘリコプター製造と洋上運用に向けた陸軍要員の訓練には時間がかかる。艦船建造や改修・乗員の確保、訓練はさらに長時間を要する。

 

軍の立案部門には時間切れになってきたのがわかっているのだろうか。中国は孫子の教えを守っている。「良い決定はあたかも鷹の降下のようで絶好のタイミングで獲物を襲い、撃破する」

 

 

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

How to solve logistical challenges during a South China Sea conflict

By: Scott Trail 

 

Scott Trail is a retired Marine CH-46 and V-22 developmental test pilot who now works as a senior research engineer for the Georgia Tech Research Institute. He has flown the CH-53E once and deployed twice (once to Afghanistan in 2001) with a squadron reinforced by CH-53E helicopters.

 


2020年12月27日日曜日

1月3日のソレイマニ司令官殺害一周年をめぐり、イランの動きに警戒する米・イスラエル両国。イスラエルは核ミサイル搭載潜水艦をペルシア湾へ移動中。

 

Israeli Dolphin sub Credit: IDF spokesperson’s unit


スラエルのドルフィン級潜水艦がスエズ運河を通過し、ペルシア湾に向かっている。12月22日にイスラエル筋が認めた。エジプトの承認を受け、浮上したままスエズ運河を航行し、イランに明確なメッセージを送ったと同筋は述べた。ドルフィン級は核弾頭つき長距離弾道ミサイルも搭載と海外報道にある。


 先週、米統合参謀本部議長マーク・ミリー大将がイスラエルを訪問し、イランがイスラエル攻撃してきた際の両国対応を調整した。


 イスラエル情報筋は1月3日のカセム・ソレイマニ(イランクッズ部隊司令官)殺害の一周年が近づく中、イランが米国、イスラエル両国をねらう軍事行動を取る可能性を指摘している。ソレイマニはバグダッド国際空港近くで米無人機のミサイル攻撃を受け死亡した。


 イスラエル政府からIDFイスラエル国防軍へ米軍によるイラン攻撃を想定した準備の指示が出ている。これはイスラエルのワラ通信が伝えている。記事によれば「ドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスを去る1月20日以前に米軍がイランに何らかの行動を取るシナリオに向け準備せよ」との指示が出た。またベニー・タンツ国防相がクリストファー・ミラー国防長官と2週間で会談を2回も行った。


 12月はじめにニューヨーク・タイムズがトランプ大統領がイランのナタンツにある核濃縮施設の攻撃を検討したと報じ、マイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペイオ国務長官他政府高官が攻撃に踏み切れば域内エスカレーションを招くと説得し、実施は断念されたという。


 この報道の直後にポンペイオ長官はイスラエル並びに湾岸諸国を訪問している。その訪問中に米中央軍からB-52戦略爆撃機含む抜き打ち演習の発表が出た。声明文では「今回の演習の目的は侵攻の野望を抑止すること」とあり、米国は中東域内同盟国への支援を改めて表明した。B-52の大型貫通爆弾はイランの地下核施設も破壊可能だ。


この記事は以下を再構成したものです。

Hey Iran: Israeli Sub Heads To Persian Gulf With Egypt OK

https://breakingdefense.com/2020/12/hey-iran-israeli-sub-heads-to-persian-gulf-with-egypt-ok/?_ga=2.253599502.661030047.1608989292-116755079.1608553590

By   ARIE EGOZI

on December 23, 2020 at 4:15 AM