2015年3月18日水曜日

★ステルスの有効性はどこまで減じているのか 新型レーダー、赤外線探知装置の進歩に注意



ステルスの神話が急速に凋落してきた、との報告がこれまでもありましたが今回の記事はなんといっても技術的にその理由を説明しているのがすごいところです。(電子技術に詳しい方の精査をお願いしたいところです。)まさしく矛と盾の関係でしょうか。

New Radars, IRST Strengthen Stealth-Detection Claims

Counterstealth technologies near service worldwide

Mar 16, 2015 Bill Sweetman Aviation Week & Space Technology

ステルスが頼りにする低レーダー断面積(RCS)を中心のステルスへの対抗技術が世界で普及の様相を示してきた。複数の新技術が開発中であり、レーダー装置、赤外線探知追跡装置(IRST)のメーカー各社はステルス対抗技術が実用化の域に達したとし、米海軍はステルス技術そのものが挑戦を受けていることと公言している。
  1. こういった新装備は各種センサーを統合して目標の探知、追尾、識別のデータを自動的に融合し、ステルス機への交戦を実現するのが特徴だ。
NNRTの55Zh6M は複数レーダーを組み合わせ車両で移動が可能。単一ユニットとしての55Zh6UMEにはVHFおよびUHFアンテナを備え、配備される。 

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  1. ステルスが部分的に超短波(VHF)レーダーで効果を失うのは電子物理の観点で説明できる。機密解除となった1985年のCIA報告書はソ連がステルス対抗技術の第一陣として新型VHFレーダーを開発し長波長の不利を補うと正しく予測していた。波長が長いと、機動性が失われ、解像度も低くなり、クラッター現象が生じやすくなる。ソ連は崩壊したが、ニツニー・ノヴォドロド無線技術研究所Nizhny-Novgorod Research Institute of Radio Engineering (NNIIRT)が開発した55Zh6UE Nebo-Uは1990年代に実戦化されており、ロシア初の三次元VHFレーダーになった。NNIIRTはその後、VHF方式のアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)装置を試作している。
  2. VHF方式のAESAは55Zh6M Nebo-Mマルチバンドレーダーとして生産に入り、ロシア空軍向けに100セット以上が調達される。このNebo-M はトラック搭載レーダー3基(すべてAESA)、VHF方式RLM-M、Lバンド(UHF)方式のRLM-D、S(X)バンドのRLM-Sで構成。ロシア文献ではそれぞれ、メートル、デシメートル、センチメートル単位の周波数としている。各レーダーにOrientir 位置割り出し装置がつき、それぞれにGlonass衛星航法受信機を備え、無線あるいは優先で地上制御車両と連結する。
  3. VHFでは走査速度が遅くなる欠点がつきものだったが、RLM-Mは電子走査を機械式走査に重ねるてこれを解決。走査範囲は120度で連続追跡が可能。この範囲だと走査は事実上即座に可能で放射エネルギーを目標上に照射し続けることができる。VHFの利点を保ちながら、中国のDF-15短距離弾道ミサイルのRCSだとXバンドで0.002 m2、VHFだと0.6 m2 になるとNNIRTは説明。
  4. Nebo-Mではレーダー3つのデータを融合して確実に標的を撃破する。初期探知のVHFがUHFレーダーにキューを出すと、つぎにXバンドのRLM-Sにキューが出る。Onetirにより正確なアジマスデータが生まれ三種類の信号をひとつにした標的の姿が浮かび出てくる。
  5. もっと高周波のデータはVHFより正確度が高くなるので標的に集中させれば探知成功の可能性が高くなり、追尾でも同じだ。「停止凝視」モードでアンテナ回転を止め、レーダーを電子的に90度視野で走査させると標的に照射するエネルギー量は連続回転時の4倍になり、有効射程も4割増える。
  6. Saabの新型ジラフGiraffe 4A/8A SバンドレーダーはAESA技術や高性能処理機能で高バンドでも小型標的への対応が可能となった。モジュラー構成によりAESAの利点を最大限に活用し、信号・雑音の区別を可能とする。そのねらいはいかに「純粋度」を高めるか、つまり照射エネルギーを目標周波数に集中させることで極めて小さなドップラー変化でもとらえて移動中の標的を探知することにある。
  7. 処理技術の新動向には「多重仮説」追尾 “multiple hypothesis” trackingがあり、反響が弱くても繰り返し解析して追尾を認識するのか移動パターンから無視するかを峻別することができる。中国もロシアと同様の方法を模索しており、昨年の珠海航空ショーでその一端が明らかになった。大型VHF方式AESA装備JY-27A Skywatch-Vが出展され、ロシアのRLM-Mとほぼ同等とわかった。メーカーは中国電子科技集団公司 China Electronics Technology Corp. (CTEC)。またショーではこれと別のUHF方式AESAが二型式とSバンド方式パッシブ電子スキャンアレイレーダーYLC-2Vも展示されていた。

  1. 出展で中国がアクティブ、パッシブ両面で探知装備の整備を図っていることが判明した。またYLC-20の名称の広範囲指向性ワイドバンドパッシブ受信システムの存在が明らかになった。これはCETC製DWL-002と併用するものと思われる。DWL-002はパッシブ方式コーヒレントロケーション(PCL)方式の三セットをあわせたもので、チェコのERA製 Veraと類似している。これは信号入力の処理で時間差を利用して標的を追尾するものだ。またJY-50「パッシブ・レーダー」の図も展示されていたが、これはVHF帯を利用する。
  2. これまでのPCLは標的の出すアクティブ放射の利用が前提だった。だがPCLを他のパッシブ受信機にアクティブレーダーと組み合わせて接続すると防衛側はバイスタティックあるいはマルチスタティックでの探知が可能となり、低RCSのステルス技術の有効性を減らすことができる。RCS削減技術は通常レーダー(モノスタティック)を想定している。極度の後退角のついた前縁でレーダー信号を偏向させてもマルチスタティックレーダーなら探知可能なスパイクが発生する。
  3. 旧式かつ小型VHFレーダーに改良を加える供給元が少なくとも5社ある。チェコ共和国のレティア Retia 、ハンガリーのアルゼナル Arzenal 、ウクライナのアエロテクニカ Aerotechnicaおよびベラルーシとロシアの数社だ。中国海軍は最新式防空駆逐艦のタイプ52C旅洋II型、52D旅洋III型にVHFレーダーを搭載している。さらに新型のVHFレーダーが今後出現する055型駆逐艦に搭載されない保証はない。
  4. ステルス機が低周波レーダーやその他探知装備で危険にさらされていることは2013年以降、米軍高官なら認識している。米海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将は公の場でステルス機がA2D2に対応できるか疑わしいと発言しており、2014年1月には新しいアメリカの安全保障を考えるセンターが出した報告書で「最近の分析の一つでは低RCS機の探知技術で革命的な進展がある反面、ステルス性能で呼応した向上がない」と指摘していた。
  5. ボーイングはEA-18GグラウラーはVHF帯の妨害ができると宣伝しており、現行のALQ-99低バンドジャミングポッドを指している。さらに次世代ジャマーでは第二次性能向上が予定されている。ただしこの契約交付は2017年の予定で、初期作戦能力獲得は2024年になる。
  6. これと別の脅威は長波長の水平線超えOTHレーダーでオーストラリアが運用中のジンダレーOTHレーダーネットワーク(JORN)が典型例だ。ロシアにはレゾナンスRezonans-NEがあり、中国もOTHを運用中だ。ここでもデータ処理が精度と感度を上げる鍵となる。JORNではフェイズ5で処理能力を向上させようとしている。
  7. OTHの長波長レーダーはもともとステルスに強い。極端に長い波長は標的の物理的サイズに近くなる。通常のレーダー断面積削減技術はこのため無効となる。ジンダレーの設計者はB-2の探知も可能だと1980年代末の時点で公言しており、米空軍はこれを真剣に受け止めた。ただし当時の空軍はOTHの解像度がとても低いため迎撃の段取りは取れないと反論していた。ただし今日では低解像度もネットワーク化レーダー群の活用で緩和され、OTH-Bは高解像度センサー類にキューを出せるようになった。
  8. 米空軍はIRSTを活用しようとしている。先行する米海軍ではスーパーホーネットの中央燃料タンクに搭載するIRSTの初期定率生産が2月に承認された。韓国向けF-15KやシンガポールのF-15SGでも同様の装備が付いている。80年代のF-14D向けに開発されたIRSTが起源のこのサブシステムだ。.
  9. ペンタゴンの作戦テスト技術部門長は海軍装備の追尾性能に批判的だが、空軍もその性能にを素直に認めており、これまでIRSTを無視してきたことと対照的だ。空軍はF-16アグレッサー部隊にIRSTポッドを搭載し運用経験を有する。海軍が調達する第一期分IRSTはわずか60セットでその後改良型を10セット導入する。
  10. 西側でIRSTで知見を豊富に有するのはSelex-ES社でタイフーンのパイレートIRSTの契約企業である。またスカイワード-Gをグリペンに供給している。同社は低RCS標的の探知、追尾にIRSTで成功したと発表している。これは亜音速飛行中に機体表皮の摩擦とエンジンの熱放射や排気噴煙から成功したとする。グリナート提督はこの点を強調した発言を2月にワシントンでしており、「空中を高速度で移動する何かがあれば、大気の分子を乱し、排熱するはずで....探知可能なはずだ」と述べた。
  11. 探知技術が向上したからといってステルスの有効性が即座になくなるわけではない、というのが業界、政府関係者の多数意見だが、それでも将来のステルス技術要素の議論の根底にこの問題が影を落としている。米海軍の艦載無人偵察攻撃機構想ではステルス性をどこまで求めるのかで議論が続いているが、中心はA2ADの進展だ。長い間にわたり一般のみならず専門家にも見られるてきた各種低技術のどれを選択してもステルス性能で大きな差は生じないとの誤解がこれで終止符を打つことになる。■


2015年3月17日火曜日

米海軍の新戦略の概要が明らかになりました


現CNOグリナート提督の置き土産になりそうな海軍新戦略の概要が明らかになりました。全体としては攻撃力を重視する方向のようで、誠に健全な方向に思えます。


Winning The War Of Electrons: Inside The New Maritime Strategy

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on March 13, 2015 at 2:51 PM
WASHINGTON:.米海軍、海兵隊、沿岸警備隊が共同発表した新海洋戦略で強調しているのは危険度がましつつある世界で電子戦に勝利をおさめることの必要性だ。
  1. 「今回発表の文書では攻撃的な論調がめだち、米国の権益がからむ場所へのアクセスを確保する必要を強調している」と海兵隊総司令官ジョセフ・ダンフォード大将Gen. Joseph Dunford,が戦略国際問題研究所Center for Strategic and International Studiesで講演した。ただし対戦相手は従来を上回る高度装備を有しているはずで、これまで米軍が優位性を確保できていたサイバー空間や電子電磁の世界での優位性確保で真剣にならざるを得ない。
  2. 戦略案の表題は「21世紀のシーパワー確立のための協調的戦略」 “A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower” と無難なものになっているが、明らかな違いが組み込まれている。2007年版と比較してみると、前回は脅威となりうる国名を明記していなかったが、今回は中国、ロシア、北朝鮮、イランを名指ししている。また伝統的な海軍の基本政策から脱却し、従来の艦隊任務(抑止、制海、兵力投射、海上保安)に加え、5番めの「全方位アクセス」 “all-domain access” を加えているのが特徴だ。
  3. 冷戦終結後の米軍各部隊は世界のあらゆる場所に移動することを当たり前にしてきた。だが潜在敵国のロシアや中国のみならずテロリスト集団さえも高度技術を入手しており、これが安全理に実施できなくなった。「接近阻止領域拒否(A2/AD)」への対抗手段の議論が続く中、新戦略構想ではこの課題を核抑止力とほぼ同等の重要問題に位置づけている。
  4. 「兵力投射が抑止のためにも必要だが、進出したい場所に移動ができなくなっている。洋上、水中、宇宙空間に加えサイバー含むすべての空間で効果をあげにくくなっている」と海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将も同じ講演で持論を述べている。「アクセスが確保できないと任務実施は不可能だ」
  5. 全方位アクセスを5番目の中核的ミッションに追加することは単なる言葉上のあやではない。「中核的任務はなにか」とウィリアム・マキキン少将Rear Adm. William McQuilkin が戦略案紹介の記者会見で発言している。「人員確保、訓練、装備の3つは法律の上でも軍の基本機能と定義付けられている」 全方位アクセスをここに加えることは「従来からの中核的機能と同等に扱うことになる」と少将は言う。
  6. ただしグリナート大将は2017年度予算案提出時点で現職にはとどまれず、今年末で作戦部長(CNO)の任期が切れ本人は退役するはずだ。だが、戦略案はグリナートが3年の任期中一貫して求めてきた構想、特に電子サイバー戦の拡充を形にして残すものだ。
  7. 「今回の戦略案でグリナート提督がCNOとして求めてきた方向性が制度化される。そこに新戦略の意義がある」と解説するのはブライアン・クラーク(退役海軍士官でグリナートの補佐を努め、戦略案作成に関与)だ。グリナートは「電子戦をその他従来の海軍作戦と同じ位置づけに引き上げようと骨を折った。統合EMスペクトラム作戦構想 Joint Concept for EM Spectrum Operations (JCEMSO)として国防総省の研究がはじまったことで機運が高まっており、EWやC4ISRも予算減少の中で重要性を高めている。だがなんといってもCNO本人がその先導役だ」
  8. 「この文書は本人の功績として記憶されるだろう」とランディ・フォーブス下院議員Rep. Randy Forbes(下院軍事委員会シーパワー小委員会委員長)も見る。「本人は主張だけにとどまらず、これから必要な兵装の検討に身を入れてきた。その一つが電子戦分野だ」
  9. 高性能装備を有する敵の打破が中心になれば、戦略案は高性能装備の整備に走ることになる。フォーブス議員は記者に戦略案では空母から運用するUCLASS無人機には戦闘能力が必要と語った。単なる偵察機にはさせないという。予算強制削減をめぐり、「歳入委員会がこの戦略案をこの週末に読み終えるとは思えない」というものの「この文書で関係者はなぜ今までの方向性を変える必要があるのか理解するはず」という。
  10. ただしクラークは議会への影響度に懐疑的だ。「この戦略案では高度装備中心を強調し、ロシア、中国と地政学的争いに勝てると主張しているが、地政学的傾向と構想上の必要点、装備能力が組み合わさっていない。これでは決定権を持つ人達にはどれを優先順位で高くしたらいいのか見えてこない。議会関係者は全体像を理解されていないままだ。『中国あるいはロシアがXをするから、当方にはYあるいはZの能力が必要だ』と説明しないと議会も優先順位がつけにくい」と解説する。
  11. 新戦略中の重要事項のでも最大のものは全方位アクセスの確保で海、空、宇宙、サイバー空間、電子電磁空間のすべてで行動の自由を確保する新構想だ。クラークによれば全方位アクセスこそ中核的任務の中心に位置すべき存在だという。
  12. 「海軍がいおうとしているのはアクセスこそ海軍機能の中心だということだ」
  13. 「海軍の戦略方針も大きく変化する」とクラークは続ける。「アクセス確保はこれまでも海軍の役割だったが、ここまで明確にまとめた例はない」 さらにソ連崩壊後はアクセスはわざわざ戦わなくても確保できると考えられてきた。しかし、今や「新戦略案で再びアクセス確保が中心に返り咲いた」という。
  14. 全方位アクセスの本質は何なのか。公文書の常として戦略案の記述は課題の列挙に終わっている。「全方位アクセスの実現には非常に多くの要素がからみあっているようだ」とクラークも認める。ただし各要素をつなぐのは電子だ。
  15. 戦略案では全方位アクセスを5つの観点で包括しており、すべてでサイバーあるいは電子戦が関係している。
Battlespace awareness 戦闘空間認識には「常時監視偵察」が物理的な空間だけでなくサイバー空間や電磁スペクトルでも必要だ。
Assured command and control 指揮命令機能の確保には米軍通信ネットワークが安全かつ高い信頼性で機能することが必要で敵の妨害やハッキングに対抗する必要がある。ダンフォード大将は海軍・海兵隊の使っている通信ネットワークでは分散作戦 dispersed operations の統合調整に適していないため新たな整備が必要と発言している。
Cyberspace operations サイバー空間内の作戦には攻撃、防衛両面の対処を含む。
Electromagnetic Maneuver Warfare 電子電磁操作戦とは海軍の新しいコンセプトで友軍の発信を隠し、敵を欺瞞あるいは妨害することだ。
Integrated fires 統合火器運用では高価だが在庫が限定されるミサイルを発射する代わりにジャミング、ハッキング、レーザー発射やレイルガンの使用で対応する
  1. 新兵器や新戦術の説明はあえて省かれているが、「今回の戦略案には非公開の付属文書が2ないし3つあり、世界的規模での作戦対応方針を述べている」とグリナートが発言している。非公表の戦略案について講演の席上で記者が質問してみたところ、グリナートは「まだコンセプト段階だが、これまでエアシーバトル構想で展開してきた内容を引き継いでいる」と答えてくれた。
  2. エアシーバトルが物議を呼んだのはハイテク、高密度長距離戦を空軍と海軍が高度な防衛体制を持つ敵国対象に実施する内容だったからだ。その後、海兵隊と陸軍も加わり、コンセプト名称はグローバルコモンズへのアクセス、作戦展開構想Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commonsと変更されている。ただし、その中心的問題提起は米軍に空、海、サイバー空間のいずれでも米国に挑戦できる能力を有する敵と戦うというもので、今回の新戦略でもこれを重視している。■

2015年3月3日火曜日

★ペンタゴンの電子戦構想で重要なグラウラー、しかしその生産ラインの維持は微妙



電子戦を実施するためのまともな機材がEA-18Gしかないというのが深刻な米軍の事情です。といっても他国でもこれだけの規模の電子戦機材をそろえたところはないので、まだましなのかもしれませんが。

Pentagon Launches Electronic Warfare Study: Growler Line At Stake

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 27, 2015 at 3:41 PM

EA-18G Growler EA-18G グラウラー
CAPITOL HILL: ペンタゴンは広範な電子戦の検討を開始し、EA-18GグラウラーとF-35各型を比較検討する。
  1. 「国防総省内で電子攻撃手段の全般に渡る検討を開始し、わが軍の作戦で必要な電磁戦環境を見極める」とジョナサン・グリーナート海軍大将が下院歳出委員会国防省委員会で発言した。
  2. 研究では個別の兵器システムの枠を超えてアメリカの電磁スペクトラム全体で統制能力を検分する。このスペクトラムにネットワーク、センサー、精密兵器すべてが依存している。
  3. グリナート大将は国防総省全体で見解を聞きたい、という。空軍には少数ながら高性能のEC-130Hコンパスコール機材があるが、多数は退役予定。陸軍、海兵隊には短距離戦術ジャマー装備があり、道路わきの爆弾装置を使えなくできる。だが防空体制の整った環境で生存できる機材を有するのは海軍だけだ。
  4. 2015年度予算要求で海軍はEA-18Gグラウラー追加18機発注を入れたが、議会は15機に査定した。2016年度予算案ではグラウラーは一機も要求していない。そうなると同機を製造するボーイングと議会としては海軍に追加発注の意図があるのか知りたいところだ。質問をグリナート大将と海軍長官レイ・メイバスにはぐらかされた報道陣も同様だろう。
  5. F-35共用打撃戦闘機の調達数を減らしF-18調達を増やすのかとの質問に対しグリナートは2020年代に「JSFとスーパーホーネットが何機必要になるのか査定中だ」と答えている。「この話題は長官とはまだ検討していない」と就任したばかりのアシュトン・カーター国防長官を指して発言したが、今年は調達なしとの記事が多く出ている。
  6. ではボーイングにグラウラー/ホーネットは不要と伝えるつもりなのか、と記者は直接尋ねて見た。「伝えることはしない、まずボスと話す」とグリナートは海軍長官の方を向いた。
Sydney J. Freedberg Jr. photo ジョナサン・グリナート大将とレイ・メイバス海軍長官
  1. メイバス長官は「F-18生産ラインはグラウラー15機が15年度予算で認められていおり2017年までは稼働する。ボーイングとは円滑な生産実施を検討している」と現有F-18の事後改修を追加発注する想定で、「海外採用があればラインは維持可能」と発言。
  2. だがスーパーホーネットの海外営業は精細を欠く。「かれこれ20年で採用はオーストラリア一カ国だけ」と指摘するのはリチャード・アボウラフィア Richard Aboulafia(Teal Group航空産業アナリスト)だ。(旧型F-18AからD型までを保有する国はあるが、これら各型の生産は終了している) 「理由の一つが機体価格」とアボウラフィアは指摘する。「F-15の水準に近づいているが性能ではF-15が航続距離、ペイロード、戦闘効率で優れている」 ボーイングは両機を生産するが「F-15導入に誘導するほうが容易」だとする。韓国、シンガポール、サウジアラビアを想定している。「F-35も圧力になっている。ユーロファイターもあり、ラファールもある」.
  3. 現在の米国発注分が2017年に終了したらボーイングの生産ラインはどうなるのか。「一年半以内になんらかの手を打たないと間に合わないだろう」とアボウラフィアは指摘。2017年に近づくと生産ライン維持がもっと高価になる。というのは部品サプライヤーにはすでに事業精算に動く向きがあるためだ。「今年後半なら楽だろうが、来年初めになれば負担増になり、2016年なら万事休すだね」.
  4. 海軍がF-18/EA-18ラインを確保すべく追加発注すれば国際競争で日程はさらにきつくなる。議会が海軍の希望を無視して追加発注を認める可能性もある。だが予算が厳しい中で可能性は少ない。
  5. 「自国で不要になった装備の海外販売は大変だ」と自らの経験を語るのはローレン・トンプソンLoren Thompson(国防産業アナリスト、コンサルタント)だ。さらに「予算制限がついたままで、もっと予算を投入するからスーパーホーネットを追加発注しろというのは他の装備を犠牲にするということになる」
  6. これまで識者はスーパーホーネット・グラウラーをF-35と比較してきた。三軍の中で海軍はJSF導入に一番消極的だが、ステルス性能の有効性が長期的にどうなるのか見極められないとし、グリナートはF-35の性能にはステルス以外もあると忍耐強く指摘している。
  7. 「ステルスだけでなく他にも重要な機能があります」とグリナートは小委員会で発言。「飛行距離が長く、空母運用でコレまでよりほぼ2倍になり、搭載する兵装は多くなり、探知用レーダーは空対空戦で威力を発揮し、他機・他艦とネットワーク形成も可能ですし、ジャミング以外に情報探知能力が向上しており情報提供できます。相当の進歩です」との発言はF-35を犠牲にしてスーパーホーネット、グラウラーの追加発注をしようという人物のものとは思えないほどだ。
  8. もし議会、海外顧客、F-35削減のいずれでもF-18生産ラインを維持できないとすると、今回の電子戦検討が重要になってくる。
  9. 研究は電子戦全般を対象した広範囲なものだが曖昧さなままだ。記者はペンタゴンにもっと詳細を教えてくれと求めているが、アボウラフィアに言わせれば研究はつきつめれば「各空母に搭載するジャマー機としてのグラウラーを増やすのかどうか」になるのだという。
  10. 電子戦の脅威と対抗手段がそれぞれ進歩する中で、海軍はグラウラーで新戦術を試している。パッシブセンサーを使い、常時発信を避ける。これまではジャマー機を2機飛行させていたが、三機必要になる。常時三機飛行させるには飛行隊の規模を拡大し空母に展開する必要が出る。現状はグラウラー5機を配備しているが、7機ないし8機が必要になる。空母飛行隊は合計10隊あるので各2機ないし3機追加配備で20機から30機の追加発注になる。ただしここには損耗用予備機は含まれていない。
  11. そうなると相当規模の調達になる。だが電子戦の優先順位は高くなりつつあり、海軍だけでなく国防総省全体で必要を痛感している。ペンタゴンの主任研究員アラン・シャファーAlan Shafferは米国が「電磁スペクトラム優位性」を喪失していると警句を鳴らす。この発言はボブ・ワーク副長官の提唱する「相殺戦略」と同じ論調だ。国防科学委員会は電子戦能力の維持拡充で年間20億ドルが不足していると把握している。グラウラーは米国電子戦の最先端手段であり、ペンタゴンの調査結果で増強が必要との結論が出る可能性が高い。予算環境が厳しい中でも調達の実現は大いに可能性があるのは確かだ。■


2015年2月26日木曜日

★★★レーザー技術の改良はミサイル防衛をどう変化させるか



レーザーで技術革新が進むと多額の費用が必要な迎撃ミサイルが不要となる可能性がありますが、これでは攻撃用ミサイルに多額の投資をしてきた中国やロシアは困った事態になりますね。オールマイティの技術はありえないので、コレまで蓄積してきたミサイル迎撃の体制が一夜にして無駄になるとは思えませんが、パラダイムチェンジがやってくるかもしれませんね。

Are Missile Defense Lasers On The Verge Of Reality?

By COLIN CLARKon February 18, 2015 at 5:36 PM

Afzal Rob LMCO laser fellowRob Afzal
CRYSTAL CITY:  三年以内にレーザー兵器の試作品で300キロワット級出力が実現する可能性があり、ミサイル防衛に革命的な変化が生まれるかもしれない。ロッキード・マーティンの技術陣が明らかにした。

300キロワット級では巡航ミサイルの撃破も可能となる。これは現在ペルシア湾で実地テスト中のレーザー兵器システム(LaWS)の10倍の威力となる。LaWSは短距離内なら低速飛行中の無人機を撃墜できる。
US Army photo陸軍の高エネルギーレーザー(HEL)実証車両
ロッキード・マーティンは米陸軍の高出力移動式レーザー実証High Energy Laser Mobile Demonstrator (HEL MD) の性能向上事業を受注しており、10キロワットを60キロワットに引き上げようとしている。納品は来年予定だが、ロッキードの主任研究員ロブ・アフザルRob Afzal は60キロワット超の実現を目指す。
「現状のシステムでも100まで行けると見ています」とアフザルは恒例のロッキードによる報道陣への説明会で発言。「ファイバー・レーザーでは300まで可能と考えていますが、300以上も可能という意見もあります」 さらに改良を加えれば「500キロワット超も可能でしょう」
現在は「予算が足りなくて100から150キロワットがせいぜいですが、技術的に制約があるわけではありません。二三年もすれば300も視野に入ってきます。ただし、予算手当が条件ですが」
「現時点でも100キロワット級のシステムは製造可能で、LCS(沿海戦闘艦)への搭載は可能です」(アフザル) (100kwだと短距離で巡航ミサイル撃墜が可能、無人機なら長距離で攻撃可能だと戦略予算評価センターは見ている) 「陸軍車両に搭載も可能です。大型機に搭載できます。戦闘機は現時点では搭載不可能です」
効率が30%から35%という光ファイバーレーザーの上限だが、300 kw出力の実現には1メガワットほどの電源が必要だ。対照的に従来のレーザー技術では効率10%が限界で、同じ1メガワット電源で得られるレーザーは100キロワットしかなかった。残りの900kwは余熱となり無駄になる。
そこでファイバーレーザーの小型化が出てくる。ファイバーはそれぞれ最大で10kwしか生まないが、ビームを合成して出力が増える。冷却はファイバー別に行い、過熱問題を防ぐ。この過熱現象がレーザー技術で障害だった。(一旦加熱すると熱除去が急激に困難となる)
US Navy photo海軍のレーザー兵器システム(LaWS)はペルシア湾に投入されている
海軍のLaWSは商用の切断用レーザー6本をつなぎあわせただけで、全部を同じ対象に集中させている。ロッキードの技術はこれより進歩しており、レーザー光線全部を単一コーヒレントビームにして長距離でも焦点合わせが正確だ。
「数百本のレーザーを合成する」のはプリズムで光が分解される虹と逆の作用だ。「スペクトラル光線合成」でレーザー複数を一つのビームにすることができる。
ロッキードはこのビーム合成技術をすでに30kw級レーザーで実証済みで、完全自社開発で実施したとアフザルは述べる。課題は出力増大で、陸軍が求める60 kwをまず実現し、その先を狙うという。■
CSBA graphic
目的別に必要なレーザー出力のちがい(Courtesy Center for Strategic & Budgetary Assessments)


2015年2月22日日曜日

シャルル・ド・ゴールがペルシア湾内に移動 ISIS空爆作戦まもなく開始か



French Carrier Enters Persian Gulf, ISIS Strike Missions Could Start Soon
By: Sam LaGrone
February 20, 2015 3:04 PM

French carrier Charles de Gaulle. US Navy Photo
French carrier Charles de Gaulle. US Navy Photo

フランスの原子力空母シャルル・ド・ゴールCharles de Gaulle (R91) がペルシア湾に入り、ISIS(ISIL)戦闘員への空爆ミッションをまもなく開始する。国防関係者が20日USNI Newsに伝えた。

同艦はホルムズ海峡を通過し、2月15日に湾内に移動した。すでに展開中のUSSカール・ヴィンソンCarl Vinson (CVN-70) に合流して空爆作戦の準備に入った。

フランス大統領フランソワ・オランドは風刺雑誌シャルリ・エブド襲撃事件の直後に空母派遣ミッションを公表している。「襲撃事件で我が国空母の展開が正当化される」

フランスは同艦派遣で米国と共同でシャマル作戦Operation Chammalを実施する。シャルル・ド・ゴールは任務部隊473旗艦として1月にツーロンを出港。フランス戦闘部隊にはこの他フォルバン級誘導ミサイル駆逐艦シュヴァリエ・パウルChevalier Paul(D621) や少なくとも1隻の原子力攻撃潜水艦、給油艦が加わっている。
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Rear Adm. Eric Chaperon, commander, French Navy Task Force 473, left, and Rear Adm. Kevin Sweeney, Commander, Harry S. Truman Carrier Strike Group 10on the flight deck of the French aircraft carrier Charles de Gaulle (R9) in 2014. US Navy Photo
Rear Adm. Eric Chaperon, commander, French Navy Task Force 473, left, and Rear Adm. Kevin Sweeney, Commander, Harry S. Truman Carrier Strike Group 10on the flight deck of the French aircraft carrier Charles de Gaulle (R9) in 2014. US Navy Photo
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英海軍タイプ23フリゲートHMSケント Kent (F78) が対潜戦(ASW)支援を提供する。
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これまでのところフランスはISIS空爆に戦闘機10機とISR機材が投入されている。

Jane's Defense Weeklyはシャルル・ド・ゴールはダッソー・ラファールMの11F(飛行隊)とダッソー・シュペル・エタンダール・モデルニゼの17Fを搭載していると報じている。

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ペルシア湾移動前にジブチで近接航空支援訓練と「戦術機体・乗員回収訓練および自国民避難訓練」をUSSイオージマ(LHD-7) 上の第24海兵遠征部隊 (MEU) と一緒に実施していることが米国防総省が発表している。■

2015年2月21日土曜日

★★US-2のインド向け売却案件の現状 




インドの文化の一部とも言える複雑な行政メカニズムにより思ったよりもUS-2案件は遅れていると思います。ただし、かなりその内容が明らかになってきましたが、日本国内では殆ど知られていないのでは。これによると現地ライセンス生産による技術移転というインドの希望が通った形ですね。今後の潜水艦案件にも共通する要素が出てくるかもしれませんのでご参考までに。

Aero India 2015: ShinMaywa confident of progress on US-2 sale to India

James Hardy, Bangalore - IHS Jane's Defence Weekly
17 February 2015

新明和工業はUS-2i計12機の販売が順調に進むと見ている。Source: Japanese Ministry of Defense

新明和工業はAero India 2015 展示会(バンガロール)で日印両国政府の支援によりUS-2水陸両用飛行艇12機のインド海軍(IN)向け販売は遅れているものの解決に向かっていると述べた。
  1. INが求める長距離飛行捜索救難機の調達認可は国防調達審議会 Defence Acquisition Council (DAC)がまだ結論を出していない。DACは契約前に事業の認可を下す権限を有する。
  2. IN高官によるとUS-2i調達(総額16.5億ドル)は昨年12月31日に開かれた統合軍司令部における軍主要装備調達分類委員会Services Capital Acquisition Categorisation Committee (SCAPCC)で特別議題となっている。インドでは装備調達はSCAPCCを通すことが義務付けられている。
  3. 新明和インドのパータ・ヅッタ・ロイPartha Dutta Roy,は2月18日に「相当の審査準備が完了した」のでDAC認可に向け今後は工程が加速化するとの見方を示した。
  4. 合同作業部会は2014年に立上り、会合を数回繰り返し技術移転の基礎作業や契約準備が進んできたとロイは述べている。
  5. INの目論見はまずUS-2を日本から2機輸入したあと、残り10機はライセンス生産で現地組立てするもので、インド民間企業と連携して実現しようとする。
  6. IN関係者は以前に購入機数の引き上げを示唆する発言をしており、海軍のみならずインド沿岸警備隊(ICG)あわせインド洋地域(IOR)で活動範囲が拡大している事に対応したいと言っていた。
  7. ロイによればUS-2i(機体総重量47トン)はロールスロイスAE-2100Jターボプロップ4発を搭載し、運用飛行範囲4,700kmなので、「3時間以内にIORのいかなる地点にも到達できる」という。■


2015年2月18日水曜日

★第六世代機 米空軍はやはりステルス性能を重視



これでは海軍と空軍が共同開発を最初からあきらめているのはしかたないですね。空軍の発想は制空権の確保に絶対有利なずば抜けたステルスを目指し、当然速度は重視、ということはF-22の延長線ではないですか。ステルス性が絶対というのは神話に過ぎなくなると言われるのに、高性能防空体制が完備しているのは広い世界のごく一部だから関係ない、という強気の姿勢なのでしょうかね。

ACC Chief: Stealth ‘Incredibly Important’ For Next USAF Fighter

Feb 12, 2015Amy Butler | Aerospace Daily & Defense Report
F-22: USAF

米空軍航空戦闘軍団司令官ハーバート・「ホーク」・カーライル大将 Gen. Herbert "Hawk" Carlisleがステルスは「非常に重要」な性能と空軍が開発を目指すF-Xを指して発言。
  1. 空軍は系統的手法を実施してリスクを削減するとカーライルは発言。F-35やF-22で新技術のため開発コストが上昇し、導入が遅れたことが念頭にあるのだろう。
  2. カーライルは空軍は試作と技術実証さらにシステム工学作業を可能な限り重視すべきとも述べた。2月12日空軍協会の航空戦シンポジウム懇談会での発言。
  3. カーライルによれば空軍は第六世代戦闘機の攻撃能力実現では原点に復帰した方法論を取るという。カーライル他の空軍上層部は第六世代機は単なる航空機の域を出ていると強調。システムを徹底的に洗い出し、通信機能、宇宙活用、スタンドオフ、スタンドインの作戦運用を航空優勢を2030年代でも確保する Air Superiority 2030構想の一貫として実現する。
  4. ジェイムズ・ホームズ中将 Lt. Gen. James Holmes(空軍副参謀総長、戦略立案担当)も空軍は「第六世代戦闘機構想に一気に移行することは望んでいない」という。
  5. 空軍がF-X検討に入る中で海軍もF/A-18E/Fの後継機 F/A-XXに必要とされる性能内容を検討中だ。海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将はF/A-XXでは速度とペイロードを犠牲としてまで生存性にこだわらなくて良いとの見解をすでに示している。■


2015年2月16日月曜日

★★★B-52エンジン換装で2040年まで稼働を目論む米空軍



この通りにエンジン換装が実現すれば、B-52は登場から90年間飛行し続けることになります。搭乗員は三世代にわたり、普通の市民よりも長い寿命の機体となります。すごい話ですね。


USAF Looking at B-52 Engine Options

By Aaron Mehta9:41 a.m. EST February 12, 2015
B-52 bomber flies(Photo: US Air Force)
WASHINGTON — 米空軍はB-52エンジン換装を検討中。実施には官民連携方式public-private partnershipも想定している。
  1. 空軍参謀次長マイク・ホームズ中将 Lt. Gen. Mike Holmes(戦略企画担当)が記者団に2月6日明らかにしたところによると空軍はエンジン換装で「画期的な」方法を模索しているという。B-52はプラット&ホイットニーTF22-P-3/103ターボファンを8発搭載するが、旧式化しており燃料効率が劣る。
  2. 「新型エンジンをB-52に搭載するのは大変な作業だ」とホームズ中将も認める。「そこで官民連携方式が浮上してきた。費用を分割方式で負担することで節約効果が生まれる」空軍は新型エンジンを一括予算を計上せずに入手できるが、予算以外の障害を事前に除去しておく必要がある。
  3. 「官民連携方式ならエンジンを別の法人でいったん支払い、空軍は燃料費節約分から長期弁済をしていく。この方式は軍施設建設で実施例があるが、航空機ではない。この方式がうまくいくかを検討している」(ホームズ中将)
  4. 昨年10月にはグローバル攻撃軍団司令官スティーブン・ウィルソン中将 Lt. Gen. Stephen Wilson が記者団にB-52エンジンを換装し、2040年まで稼働させたいと話していた。「エアライン業界でエンジンの換装があたりまえなのは節減効果が大きいからだ。エンジンへ換装で航続距離や待機時間が25ないし30%伸ばせるとしたら、無視できない」

  1. 専門家の間ではプラットのPW2000(軍用仕様はF117)が換装候補だという。民間ではボーイング757、軍用ではC-17輸送機に搭載されている。
  2. ホームズ発言の前日にプラットの軍用エンジン部門長ベネット・クロスウェルBennett Croswell は空軍に「非常に魅力的な提案」をしていると記者団に告げている。
  3. クロスウェルによればF117エンジンは論理的な選択だが、高出力エンジンを搭載すれば主翼も変更する必要があり、どうするのかという問題があったと言う。この問題はすでに解決済みで、同社は8発仕様のままとする案を提案しているという。
  4. 「問題は価格でしょう」とクロスウェルは構想実現の可能性について言及。「エンジン性能で相当の節減効果が生まれます。空軍にはさらに魅力ある追加提案が可能です」
  5. B-52エンジン換装事業が公開入札になればジェネラル・エレクトリックロールスロイスも参入を検討するだろう。■


2015年2月14日土曜日

★ISIL空爆対象は半年で4,817。だがその中身は?



日本もいまやISIL(ISIS)との戦いに巻き込まれています。そこで空爆の途中結果から敵方の状況がどうなっているのか、どんな戦術が必要なのかを正しく理解することは重要と考えます。以下ご紹介する記事がその意味で参考になれば幸いです。

4,817 Targets: How Six Months Of Airstrikes Have Hurt ISIL (Or Not)

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 11, 2015 at 5:07 PM
戦闘はエスカレートしてきたが、6ヶ月に及ぶ空爆で自称イスラム国へどれだけの被害を与えられたのだろうか。
  1. 先週ヨルダンは自国パイロット捕虜を焼き殺したイスラム国へ報復攻撃を敢行した。昨日はISILは別の捕虜カイラ・ミューラーを殺害したこともわかった。今朝はオバマ大統領は対ISILで軍事力行使の権限付与Authorization for the Use of Military Force(AUMF) を正式に議会に求めた。核心は今後米地上軍派遣の可能性だ。
  2. 米中央軍 (CENTCOM)から空爆戦術の効果で詳細データが発表された。2月4日現在の数字で合計4,817箇所の目標が損傷あるいは破壊された。リストは28分類となり、「戦闘地点」(つまりたこつぼ)752箇所から「通信装備」7組まで分かれている。
CENTCOM data analyzed by Breaking Defense
  1. 今回の作戦は近接地上支援攻撃であり、空軍の本来の目的である敵戦略拠点への局地攻撃ではない。対象の3分の2は戦闘員、抵抗拠点、車両で、残る3分の1が建物等固定目標だった。これだけでは実態が見えてこない。なぜなら建物と言っても前線近くで戦闘員が立てこもる拠点の場合もあるからだ。ただし、2対1で戦闘員への攻撃が突出しているのは明らかだ。
  2. イスラム国にはタリバンやイラクの反乱勢力と同様に戦略的な意味がある空爆対象は全く存在しない。ISILの石油関連施設攻撃で資金調達を困難にさせたが、この目標は130回分、わずか3%弱にしか相当しない。橋梁や道路の空爆も69箇所と1.4%しかなく、Dデイ直後に道路上で大軍を移動させ連合国空軍の格好の目標となったロンメルとISILの移動バターンは異なっている。
.ISIL infrastructure struck
  1. 米空軍は前身の陸軍航空隊時代から敵地奥深くへの攻撃を望み、蛇の頭を切り落せば良い、と考える。2003年の「衝撃と畏怖」空爆はこの考え方の絶頂だったといえる。ただしその後はゲリラには司令部、工場、インフラがなく爆撃の標的が成立しなかった。そこで米空軍は近接航空支援に切り替えた。
  2. ただし今回は空爆の支援対象は米地上軍ではなく、クルド人ゲリラ組織やイラク軍だ。ある意味で2001年時点の状況に戻ったといえる。当時は圧倒的な北方同盟がタリバンに立ち向かうのを米国は空軍力で支援していた。では2001年モデルがイスラム国にも有効だろうか。
ISIL troops struck
  1. ISILは確かに失速気味だ。昨年は電光石火のごとく前進していたのが各地で行き詰まりを示しており、コバニではクルド人部隊を攻撃するISILは空中の米軍の格好の目標で、消耗戦が展開されている。空爆では395箇所のISIL戦闘員集合地点が攻撃の対象となった。
  2. ISILはイラク陸軍から相当数の高性能軍用車両を捕獲したものの、訓練不足と補給の不備で現在も車両の中心は武器を搭載したピックアップトラックで、空爆は396両もの「テクニカル」車両を破壊している。戦車62両が目標となった。目標リスト全体を俯瞰するとISILには戦闘員を支援する重武装がなく、装甲兵員輸送車、戦車の不足がわかる。戦闘意欲を喪失したイラク軍やシリア穏健派には勝るものの、頑強な抵抗にであうと第一次世界大戦の西部戦線と同じこう着戦になっている。
.ISIL vehicles struck
  1. 行き詰まりの観があるISILは反撃から程遠い状態だ。防御は攻撃より容易だが、戦闘を終了させるのは攻撃だけだとクラウゼビッツがいみじくも言っている。ただし現在のイラク治安維持軍は戦意が不足し、クルド人部隊は大型兵器が不足している。シリア穏健派にはその両方が欠けている。それぞれ米軍による訓練、装備提供、航空支援がないと攻勢をとれない。やはり米軍地上部隊が必要なのか。
  2. 今のところ米軍地上部隊はイラク後方での訓練に限定されている。上院軍事委員会ジョン・マケイン委員長はこれまで数ヶ月に渡り「地上部隊増派が必要だ...前線航空統制官や特殊部隊などの増強が求められる」と発言している。少数の専門兵科隊員で空爆を正確に誘導し、効果の大幅増加が可能だ。これは9.11後に実施済みの北部同盟向け戦術であり、2001年のアフガニスタン空爆でも重要な役割を果たしているのに、今日の中東では実施されていない。
  3. オバマ大統領が求める軍事力行使権限申請(AUMF)では少規模地上部隊の投入は排除していない。報道発表では特殊部隊による急襲、墜落パイロットの捜索救難、その他支援任務を想定し、地上戦は意図しない、とする。AUMFで除外するのは「長期間の陸上攻勢作戦」だけだ。これは故意に不明瞭な言い回しだが、抜け道を残しており機甲一個師団なら投入は十分可能だ。
  4. マケイン委員長からAUMFのコメントは出ていない。ただ下院軍事委員会のマック・ソーンベリー委員長からは大統領の選択は「正しい方向性」をめざしたものと議会承認を求めたことを評価しているが、オバマ大統領の手法については「憂慮」を表明しており、「なぜ今も使える権限に制限をかけて自らの手を縛るのか」と発言。上下両院の軍事委員会での民主党議員トップ、ジャック・リード上院議員とアダム・スミス下院議員はともに大統領を支持するものの、リード議員は「遅すぎた」としている。「今後は議会で討論をし、内容を改善し、最終的には別のAMUFで議決する」と発言。政治上の現実を軍事上の状況に一致させるのが課題だ。■


2015年2月13日金曜日

★RAND 「中国軍の深刻な弱点」を指摘する報告書を発表



敵にわざわざ克服するべき弱点を教える。いかにも大胆なアメリカ的発想ですが、裏には中国では指摘した弱点の克服はまず不可能だろうと見ているのでしょう。その根本には非民主体制の専制国家は勝利をおさめることはできないとの強い信念があるのではないでしょうか。報告書を見て発奮した中国が改革に乗り出せば逆にアメリカに有利になるとの読みもあるのでしょう。RAND報告書はぜひ見てみたいものですね。

RAND Spots China’s ‘Potentially Serious’ Weak Spots

By COLIN CLARK on February 11, 2015 at 11:58 AM

「PLA(人民解放軍)の弱点を発見した」とRANDコーポレーション簡潔ながら強力な主張をしている。議会が設置した米中経済安全保障検討委委員会U.S.-China Economic and Security Review Commission.の依頼で中国の軍事力を分析した。報告書は中国の弱点を簡潔に述べている。
  1. 「まず制度面だ。PLAは旧態依然の指揮命令系統の弊害に直面しており、人員の資質、専門的知見、組織内汚職でも同様。二番目は戦闘能力だ。兵站面での弱点、戦略空輸能力の不足、特殊任務用機材の不足、艦隊防空体制の不備、さらに対潜戦闘でも能力不足がある。」
  2. これだけ弱点があるとPLAは中国首脳部が想定する重要任務の実施がおぼつかない。例えば台湾危機、領海確保、海上交通路防衛、戦闘以外の軍事展開ミッションがある。「このためPLAは尖閣諸島の領有を宣言できず、哨戒活動もできない。スプラトリー諸島他各地の領土問題箇所でも共通」
  3. 人民解放軍の特筆すべき弱点として専門家の意見が共通する分野は米国の優位点となる。つまり、中国の指揮命令系統とその機能であり、人材の教育訓練とRAND報告書は指摘。中国はそれでも各軍合同運用を試みており指揮命令の一元化、装備と人員の統合を進めている。
  4. RAND評価ではPLAは「宇宙空間、電磁空間でも中国の権益を守り切れない可能性がある」と指摘している。ただし衛星攻撃実験や米国スパイ衛星へのレーザー照射で中国が注目を集める中で皮肉に聞こえる。
  5. 中国の軍事力外交力の増大に懸念を感じる向きにはさらに朗報がある。調達で中国は弱点を抱える。
  6. 「国防産業界では汚職の蔓延、競争状態の欠如、過度の独占状態、開発遅延・予算超過、品質管理、官僚主義での分断化、時代遅れの調達制度、海外技術知識へのアクセス不足が主な問題だ」と報告書はまとめる。
  7. 一方で注目すべき進展を見せているのも事実で、中国は湾岸戦争後に「多用途水上艦艇、高性能潜水艦、最新鋭航空機、通常型弾頭巡航ミサイル・弾道ミサイルを実用化しており、後者では対艦弾道ミサイル(ASBM )で米海軍の空母を狙っている」
  8. 報告書の出典は機密情報ではないが作成者は膨大な量の中国文献情報を調査している他、米政府公文書も参照している。
  9. 中国側も同報告書に目を通し、腐敗した独裁政治体制は弱点克服に必死になるはずである。報告書は一読の価値が十分ある。■