2016年7月16日土曜日

米空軍戦闘機パイロット不足700名、空軍長官・参謀総長の対応策とは

景気がよく軍パイロットが残らないため戦闘機パイロットが不足とのことで、空軍にはつらい状況のようですが、無人機の拡充に進む契機のひとつにもなりそうですね。人口減少が加速する日本では大丈夫なのでしょうか。空軍長官も参謀総長も専門サイトに見解を発表するのは米国のすごいところで日本にも参考になるはずです。

The US Air Force Is Short 700 Fighter Pilots. Here’s Our Plan to Fix That.

At Bagram Air Base, Afghanistan, a U.S. Air Force F-16 Fighting Falcon “Triple Nickel” aircraft pilot assigned to the 555th Expeditionary Fighter Squadron from Aviano Air Base, Italy, awaits weapons check, July 14, 2015.U.S. AIR FORCE PHOTO BY TECH. SGT. JOSEPH SWAFFORD/RELEASED
  • BY DEBORAH LEE JAMES
  • GEN. DAVE GOLDFEIN
  • JULY 14, 2016
かつてない多忙な中で規模を大幅に縮小した米空軍はパイロット賞与を増額し、家族と過ごせる時間をより多く与え、民間航空部門や好調な経済と対抗すべきだ。

ペンタゴンの様々なリーダーシップの現場でいろいろ考えさせられる場面がある。その一つに米経済に良いことが全志願制の米軍に深刻な問題となる、ということがある。低失業率で活発な雇用は国にとっては朗報だが各軍には隊員の新規確保と人材つなぎとめが難題となる。

  1. 具体的には戦闘機パイロット不足が拡大中だ。500名から700名が今年度末に不足すると見られ、世界各地で作戦展開の必要水準から21%足りない。これだけの乖離は深刻で注視すべきだ。しかも空軍だけではない。海軍、海兵隊も同様の問題に直面しているのは民間エアライン業界が定年パイロット退職に伴い大規模な採用を続けているせいだ。また新基準でエアラインパイロットの年間操縦時間が1,500時間上限となり軍が養成したパイロットが改めて注目されている。

  1. ただしエアライン業界だけが空軍パイロット不足の原因ではない。飛行時間の大幅削減はペンタゴン予算の削減が出発点だが、海外勤務が終わると急に手取り収入が下がり生活を切り詰める必要があることも一因だ。間違いなく問題は悪化の一方で解決の兆しは見えない。

  1. 筆者両名の責務はリーダーとしてこの課題に正面から立ち向かい、良識ある方法で原因を根本解決し、空軍隊員各位に隊に留まる確たる理由を実感させることだ。軍パイロットも民間パイロットも国の安全と商業活動でそれぞれ重責を担う必要不可欠な要素だ。

  1. 空軍はパイロット不足を以前も経験しており、民生部門の雇用ピークに影響される周期現象と理解しているが、今回の影響は深刻だ。空軍は25年間に渡り戦闘を継続しており、ここまで業務が多忙になったことはなく、一方でここまで規模を縮小したことはない。そのためパイロットのみならず人員全般の不足への対策で判断誤りのk許容範囲がない。民生部門なら既存の労働市場に求人すれば欠員解消できるが、軍では技能専門職を自ら育成する必要があり、相当の期間を要する。

  1. 以上を念頭に現状を逆転しパイロットをつなぎとめる策を果敢に実行に移す。新規パイロット養成を拡大し、第一線飛行部隊で時間を食う間接業務の負担を軽減し、飛行手当の拡充を図る。議会も問題の深刻さを認識し空軍に残る中堅パイロットの年間賞与を増額する提案が議会に提出されている。賞与25千ドルは1999年から据え置きのままだがインフレで価値は下がっている。

  1. 経験から金銭がすべてではないとわかっているが、軍人が民生部門の給与水準に魅力を感じると軍にとどまるか去るかの分かれ目になるのは棒給額だ。今のところ賞与を受け取るのは少数の戦闘機パイロットの男女だけで金額も低い。必要な措置を講じ水準を引き上げ意味のある形にしたい。

  1. 軍の一員が一番幸福感を覚えるのは装備が十分で、予算手当が十分かつ必要な支援を得て持てる力を十分発揮できる時だ。そこで追加措置を取る。戦闘任務から帰還する飛行隊隊員には家族と過ごす時間を十分に与えるとともに操縦訓練予算を潤沢に確保してキャリアを引き上げる道を開く。飛行時間の問題の課題のひとつは整備要員を確保し機材を飛行させることだ。

  1. 人員対策を各種検討し、整備人員不足のため機材を遊ばせておくことがないようにしたい。パイロットも整備員もともに民生部門が狙う人材であり、空軍はエアライン業界と協議し、国防のニーズと民間部門のニーズを調整したい。さらに言うまでもないことだが、健全な方向性に留まる中で予算強制削減措置の再発の余裕はないのだ。

  1. 現時点で特に重要なのはパイロット全体に実行可能な対策を打っていると示すことだ。米国、友邦国にとって世界が危険な場になっている事実そのものは変えられないが、空軍力は統合運用の中で世界各地で安定の実現手段である。経済活況の中で空軍の有能人材が引きぬかれていると嘆くばかりではダメだ。

  1. なすべきは各隊員に任務の意味を思い起こさせ軍に残る確たる理由を与えることだ。


デボラ・リー・ジェイムスは空軍長官、デイヴ・ゴールドファイン大将は空軍参謀総長。

★★★A-10の主力装備GAU-8機関砲とは

A-10の存在意義であるガトリング砲GAU-8について詳しく解説しています。もともとがガン専門誌の記事なのでややマニアックかもしれません。また訳にも一部おかしなところがあるかもしれません。ご存知の方はご指摘ください。


War Is Boring We go to war so you don’t have to
U.S. Air Force photo. All other art via Wikipedia

Everything You Ever Wanted to Know About the A-10 Warthog’s Big-Ass Gun

The GAU-8 is a fearsome shooter

by MATTHEW MOSS

ジェネラル・エレクトリックの30ミリGAU-8アヴェンジャー機関砲は米空軍A-10サンダーボルトII対地攻撃機の主要兵装として40年に渡り使用されている。同じ砲は海軍の近接防空システムであるゴールキーパーにも採用されている。巨大で畏怖感を与える銃だ。
  1. GAU-8は銃身7本と円形ロック機構付きボルトで構成する。動力に油圧モーター2基を使い理論上は戦車を貫く劣化ウラン弾を毎分4,200発発射できる。
  2. 1960年代に空軍は対地攻撃専用機材として導入可能な低価格で装甲車両や固定陣地を破壊できる近接支援機が必要と結論づけた。ソ連装甲師団が大量に西ヨーロッパに流れ込む脅威から主力戦車や装甲兵員輸送車を破壊できる機体が必要となった。
  3. 1966年9月に米空軍は試作攻撃機事業、別名A-Xで新型近接航空支援機の開発を始めた。
  4. A-Xでは安価な機体に低速での操縦性、長時間の空中待機性能を付与し残存性と火力を重視した。空軍はA-1スカイレイダーのパイロットからヴィエトナム実戦体験を求め、提案内容を1970年夏に修正した。
  5. また提案書では30ミリ回転式自動砲に毎分4千発の発射性能を要求した。空軍はM61を以前に開発したジェネラル・エレクトリック、成功しなかった25ミリGAU-7の開発元フィルコ-フォードの二案を競合させた。
  6. ジェネラル・エレクトリック案が採択され、制式名称GAU-8別名A/A49E-6ガンシステムとなった。
  7. ジェネラル・エレクトリックは以前からある20ミリM61ヴァルカン砲を拡大すれば空軍の想定する最大機体重量を超過するとわかっていたので別の方策をとり、新設計軽量装備にヴァルカンのリンク無し弾薬供給機構を組み合わせた。
  1. 一方で機体では二社案があり、フェアチャイルド・リパブリックのYA-10とノースロップYA-9を比較検討していた。フェアチャイルドのYA-10では機関砲をやや左側に搭載し、弾薬バレルを右側9時の位置に配置した。
  2. これでGAU-8に45キロニュートン相当の反発力を機体中央線に沿って与えるとともにA-10が砲を発射しても機体がずれて目標を外さないようにした。
  3. 公試は1972年末に始まり、翌年1月に空軍はYA-10を採用した。A-10は頑丈で長持ちする機体でメンテナンスは比較的軽微ですみ、支援設備が不十分な前線基地からも運行可能とするため、滑走路が不完全でも対応できる設計にした。
  4. ファエチャイルドは残存性を高くするため機体全体は23ミリ機関砲に耐え、コックピット周りは57ミリ砲の銃撃にも耐える構造にした。燃料タンクは自動密封型とし、油圧系統、エイビオニクスを損傷しても「手動復帰モード」で飛行可能だ。
  5. GAU-8機関砲の単体重量は620ポンド(約280キロ)で、A/A49E-6ガンシステム全体は4,029ポンド(約1.8トン)とA-10の全体重量のおよそ16%を占める。GA-8の銃身は7本あり、導入当初は毎分4,200発の発射が可能だったが、空軍は3,900発に下げる。この速度だと各銃身は毎分557発を発射し相当の威力であることに変わりない。
  1. 実際にはパイロットは発射を一秒から二秒にとどめ、弾薬を節約し銃身の寿命を長引かせる。空軍は銃身の寿命を2万発に設定している。銃身は簡易脱着式としメンテナンスや脱着作業を容易にしている。
  2. 装備の全長は18フィート(約5.5メートル)で弾薬ドラムの直径は3フィートだ。GAU-8の弾倉は1,174発まで収納できるが、空軍は通常は1,150発しか装填しない。油圧モーターが二基あり、合計77馬力を発生し、弾薬ドラム装填、砲の発射に使う。またモーター二基でGAU-8の銃身7本をほぼ瞬時に回転させる。
  3. A/A49E-6ガンシステムでは薬きょうを機外に排出せずドラム型の弾倉に戻し飛行後に地上要員が取り外すこれで薬きょうをエンジンに吸い込まず機体の損傷を防ぐ
  4. 当初は地上要員がA-10の弾倉を手作業で装填していたが時間がかかっていた。1976年に空軍は自動装てんシステムの提案要求を出し、コロニーエンジニアリングColoney Engineering Companyが弾薬装填と使用済み容器の取り外しを同時に行う装置を納入した。
  5. ジェネラルエレクトリックはGAU-8用30ミリ弾を機関銃の基本設計を元に開発した。戦車の装甲を貫徹する弾丸には高硬度貫通部分が必要とされた。最適素材としてタングステンが浮かび上がったが、タングステン供給は中国とソ連が大部分を占めていた。
  6. そこで代替策が見つかった。劣化ウラニウムで発電用原子炉に使うウラニウム濃縮工程で生まれる副産物だ。天然由来のウラニウムのおよそ60パーセントの放射能強度がある。実際に使用すると、推進部分から分離し断片に分かれ炎が発生する。ジェネラルエレクトリック広報では劣化ウラニウムを「重金属」と一般的に説明していた。
  7. ジェネラルエレクトリックはエリコンの304 RK弾丸を原型に二種類の弾薬を開発した。装甲貫徹型焼夷弾はPGU-14/Bの名称がついた。PGU-13/Bは高性能爆薬を使う焼夷弾だ。A-10はPGU-14/BとPGU-13/Bを5対1の比率で装填する。共にアルミ合金の筐体で重量軽減とペイロードを増やしている。
  8. PGU-14/B  API弾は距離1,200メートルで装甲55ミリを貫通し、300メートルだと76ミリ装甲も貫徹する。1979年のテストでA-10はM47パットン戦車をソ連のT-55やT-62に見立て攻撃後評価は「深刻な被害」と評し、低空通過攻撃は「大変効果がある」としている。
  9. 11発から27発命中すれば戦車は破壊される。1,200メートルの距離からでもA-10は12メートル範囲に80パーセントの弾丸を命中させられる。
  10. 1970年代中頃にオランダの武装メーカーHollandse Signaalapparaten B.V.はGAU-8をゴールキーパー近接防御装備システムに採用した。ゴールキーパーは水上艦艇をミサイル、航空機、高速艇の脅威から2,000メートルの有効範囲で守る。複数の海軍が採用している。
  11. A-10はさらに16千ポンドの兵装を主翼下のハードポイントにロケット弾、ミサイルとしてAGM-65マーヴェリック他各種爆弾を搭載できる。A-10の初実戦は1991年の湾岸戦争で推定3千両のイラク車両を破壊しており、うち戦車は900両だった。ある交戦ではA-10二機のでイラク戦車23両を破壊した。
  12. 湾岸戦争の空軍機材では戦車を一番多く撃破したのはF-111だったが、A-10は近接航空支援の中心だった。1991年以降にA-10はアフガニスタンにも配備され、2003年のイラク戦争や2011年のリビア作戦にも投入された。直近ではイラク、シリアでイスラム国を攻撃中だ。
  13. 空軍と州軍に改修済みA-10Cが283機配備されている。ジェネラルエレクトリックはGAU-8機関砲を770基製造し、A-10とゴールキーパーが搭載している。■

2016年7月15日金曜日

ボーイング創立100周年 その功績をアメリカはこう見る


ボーイングは本日創立100周年を迎えます。すでに一民間企業の域を超えた存在ですが、あらためてレキシントン研究所のローレン・トンプソン博士が同社の功績とアメリカにとっての意義を手短にまとめていますので見てみましょう。

  
What Boeing Has Meant For America: A Centennial Assessment
July 14, 2016 Loren B. Thompson, Ph.D


What Boeing Has Meant for America_Page_01
比類なき企業 ボーイングカンパニーの創立は1916年7月15日。以後一世紀でボーイングは世界最大の航空宇宙企業になり、ジェット旅客機、戦闘機、回転翼機、宇宙システムズで名を知られるようになった。年間売上は1,000億ドルに近づきあり、受注残は5,000億ドルほどの同社はアメリカ最大の輸出企業であり、軍用メーカーでは世界第二位だ。
なぜボーイングは生き残れたのか ボーイングは独特の価値観を育て創設者のカリスマ指導力に依存せず、技術で他社の追随を許さない投資を続けたことで同業他社より長く存続している。一部の中心製品だけに依存せず、同社は市場の変化に絶えず適応し、広範な航空宇宙製品に自社技術を巧みに投入してきた。多角化で同社は機会の幅を広げるとともに打たれ強くなった。
恐れず現状を打破したイノヴェーションの歴史 ボーイングはイノヴェーションの豊かな伝統を各方面から受け継いだ。エンジニアリング国家アカデミーは20世紀の傑作工学製品リストにボーイング機を6種類加えている。また787ドリームライナーのような製品で市場の常識を破っている。先をゆくボーイングにはリスクも生まれるが、画期的製品の開発で世界の商文化の方向を変えて成功してきた。
世界を変えた同社製品 ボーイングの737旅客機は歴史上最も使用頻度の高い商業輸送手段である。また777は世界で一番多く活躍するワイドボディ機で飛行距離は他のどの機種より長い。軍用機でも同様にB-52爆撃機やF-15戦闘機は航空優勢を定義する機体となった。B-52は現在も大型爆撃機の中心で、F-15は実戦で一機も撃墜されたことはない。
米経済実績への同社の影響度 ボーイングの社員は160千人、契約企業は20千社を数え米国全土に広がる。民間部門で7割、軍事部門で3割の売上は海外で計上し、全米最大の輸出企業になった。ボーイングはこれまで一度も安価な労働コストや税率を理由に海外進出したことはなく、米国内でイノヴェーションをめざし、各州に関連企業を抱える「エコシステム」を維持している。
米国の安全保障への貢献 第2次大戦のB-17から今日の空母搭載F/A-18スーパーホーネット戦闘機までボーイングは米軍事力による平和維持で中心の役割を果たしている。戦略核兵力の爆撃機、ミサイルの大部分がボーイング製であり、戦闘機、給油機、輸送機、レーダー機材や軍事用回転翼機でも同様。同社製造 の打ち上げロケット、衛星、弾薬は米軍に不可欠な存在だ。
アメリカにとってボーイングのブランドとは ボーイングのブランドは世界で大きな価値があり、人類の進歩への貢献の証明でもある。同社の成功は米国の技術先導性を物語り、製品の競争力も輸出で証明済みだ。同社は民間、軍事両面で顧客とともに努力して成功を得ており、一部門での成功はさらに別部門でも成功に繋がると証明している。
次の100年へ ボーイングは今後も民間輸送機市場で画期的な製品を投入し他社の追随をゆるさないだろう。大型機生産の技は軍用給油機や警戒機に応用され、各種サービス事業は大きな存在に育っており今後も拡大を続けるだろう。宇宙事業も成長分野で、回転翼機でも世界をリードするだろう。有人機・無人機のビジネスチャンスを開拓していくはずだ。■

レキシントン研究所による著者のレポート。より詳しくは下をクリックしてください。



判決後の中国の行方は不明、今の段階では、だが...



中国も閉塞状況に陥ることを防ぐため、急いで手を打ってくるでしょう。どうでもいいようなアフリカやパキスタンといった中国友邦国の中国支援の合唱なのか、フィリピン等関係国への懐柔策なのか露骨な軍事力の誇示なのかまだわかりません。一方で東シナ海情勢についても注目が集まると思いますが、対称的な情勢の違いは日本の抑止力から来ているのでしょう。その意味で今回の選挙でも有権者はまだ意識していませんが、しっかりした安全保障の観点を維持していく、必要な軍事力を整備していくことの重要性は明らかです。日本としては東シナ海で中国の暴走がおこならないようにする一方で、南シナ海の各国との連携で日米豪のプレゼンスを展開していくべきです。だからこそ中国は先回りして日本を牽制しているのですね。

  Experts Say China’s Path After South China Sea Ruling Unclear

By: John Grady
July 13, 2016 3:14 PM


中国が国際仲裁裁判所決定を拒絶する姿勢を明らかにしている中、米中で軍事緊張が高まるのか、交渉の可能性が広がるのか現段階で断言できない。

  1. 元自衛艦隊司令官の香田洋二海将(退役)は今回の裁定結果について日米両国政府には「既成事実」と述べている。
  2. ワシントンDCの戦略国際研究センターに集まった聴衆に香田はスカボロー礁で中国が土地造成に踏み切れば軍事的観点で「情勢が大きく変わる」と指摘。.
  3. 軍事三角形が完成すれば中国は九段線に向け自国本土から兵力投射が可能になることを香田が言及した。「すぐ開戦にならないとはいえ十分備えておく必要が生まれます」仲裁裁判所決定には法的強制力はない。
  4. 王立国際問題研究所で国際法を専門とするジュリア・シュエ主任研究員は今回の決定への中国の反応は「一時的に緊張を高める」効果を該当地域にもたらすが、同時に「各国を将来を考えさせる」結果を生む。同研究員は中国外務省の声明文で交渉に応じるとのくだりに注目し、在米中国大使も同様の発言をしている。
  5. 中国は1970年代から自国を海洋大国とみなし、この五六年に動きを加速し国家指導部も「海から変える」思考で世界における自国の役割を想定してきた。台頭する海洋国家として中国は内陸部では「新シルクロード」で西方への通商をめざし、アジア向けの投資銀行も設立したと同研究員は指摘。
  6. 投資機関エイジアグループを主宰するブライアン・アンドリュースからは「南シナ海問題で中国の負けは米国の勝ち、とゼロサムゲームで見る」のは米側の思い違いと指摘。
  7. 米国のアジア再バランスについて香田は「短期間で成果は出ていない」とし、同盟国同士の日米両国は今回の決定を受け「新しい戦術を生み出す必要がある」という。
  8. 「米国のプレゼンスはインド洋から太平洋まで安定をもたらす存在で、南シナ海はその途中にある」と指摘した。
  9. マレーシアの戦略国際研究所で外交政策と安全保障研究をとりまとめるエリナ・ノールから東南アジア沿海諸国で南シナ海の主権領有権が未解決と指摘が出た。「資源問題もある」とし漁業からエネルギーの存在も指摘した。またマレーシア固有の問題として首都クアラルンプールがある半島部と三時間かかる東のボルネオ島の大部分が同国の主要部分で南シナ海が隔てていることを言及した。
  10. 東シナ海では引き続き日本と中国が尖閣諸島をめぐり緊張しているが、安定した状態だと幸田は指摘した。その理由として海上保安庁の体制が冷静だがしっかりしていること、その背景に海上自衛隊と米太平洋艦隊が必要あれば対応できると指摘し、同地点は「当面は安定した状態」と、五年から七年間先を見越した。■





2016年7月14日木曜日

★規模縮小中の米空軍が期待するのは火力結集のハイテク新手法

これも第三相殺戦略の一環なのでしょうか。機数でかなわないので米軍は無人機他のハイテクの方向に向かうようです。気になるのは旧型機を無人機に改装し第五世代機から運用するというアイディアですね。日本は無人機開発を怠っていましたので、米国との技術力の差が大きくなっていますが、これからはギャプを埋めてもらいたいものです。一方で中国のハイテクスパイ活動には要注意ですね。


As Air Force Shrinks, Officials Look For New Ways to Amass Firepower

Valerie Insinna, Defense News6:04 a.m. EDT July 10, 2016


Gremlins(Photo: DARPA)
WASHINGTON — 米空軍の現有機材規模が過去最小かつ稼働年数も最長になっており新規機材の調達企画もあるが空軍当局者は今後の世界で空を制圧し自由に目標を攻撃する能力が維持できなくなると深刻な懸念を隠せない

  1. そこで空軍は機数は増やさず威力を増加させる技術として、無人航空機システム(UAS)、既存機改修や高性能兵装に期待する。
  2. 「戦闘の成否を握るのは今も昔もどれだけの火力を一度に一か所に集めることで、空でも地上でも同じ」と前空軍参謀総長マーク・ウォルシュ大将はDefense Newsに退任直前に語っていた。「前提に兵装が必要だし、精度も照準を合わせる能力も必要だ」
  3. 「わが方には機体もセンサーもあり、これは実現できる。それでも戦闘シナリオで大量の火力が確保できないのは軍の規模を縮小してしまったせいだ。そこで戦闘投入できる機数を増やせば、もっと火力を投入できるはず」(ウェルシュ)
  4. この実現策の一つにいわゆる「重武装機」構想があり、ペンタゴンの秘密部署戦略能力開発室Strategic Capabilities Officeが開発中だ。国防長官アシュトン・カーターがその存在を発表し、既存技術を新用途に投入する現実的な解決策だと今年初めに明らかにしている。
  5. 重武装機は旧式機体を利用するが機種名はまだ明らかになっておらず、精密誘導兵器を大量に搭載する。戦闘投入されれば第五世代戦闘機が敵領空に侵入し、目標情報を重武装機に送りスタンドオフ攻撃を可能にする、とSCO室長ウィリアム・ローパーがDefense One主催の技術サミットで説明している。.
  6. ウェルシュ大将は重武装機構想を空軍が採用するかは不明としたが、「何があっても」開発すべきだとし、空軍が火力投入を一層必要としていからだという。
  7. 「今後二十年間の兵力構造が今のままだとしましょう。F-22が187機しかありませんがもっと大規模な航空優勢の確立が必要となれば、戦闘の初期段階で使用可能な兵装を使いきってしまうでしょう」
  8. SCOには「忠実なるウィングマン」構想への強い期待がある。これは第五世代機のパイロットに無人化した第四世代機を制御させるもので、たとえばF-35が無人F-16と同時に飛ぶことになる。
  9. 「まだ独り立ちできる無人戦闘機の実現は無理でしょう。そこで有人機と組ませることにしました」とローバーは語る。「無人機によりパイロットでは無理な機体制御が可能となり、有人機には危険になるペイロードを運べ有人機よりも大きな威力を実現できます」
  10. SCOと国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)はともに革新的な技術の開発を長期にわたり目指しており、無人航空システムUASの大量発進から開始する。SCOは安価かつ使い捨て超小型無人機を戦術攻撃機から放出する構想で機体は回収しないとローパーは語る。
  11. その対極がDARPAのグレムリン事業で回収可能UASに、ペイロードを搭載するとスティーブン・ウォーカー副局長はいう。初期段階の構想開発業務の契約がコンポジットエンジニアリングComposite Engineering、ダイネティクスDynetics、ジェネラルアトミクス、ロッキード・マーティンの各社へ交付されている。
  12. またDARPAは極超音速技術による兵器開発に相当の注力をしており、極超音速空気吸い込み式ミサイルや打ち上げ滑空体を超高速かつ制御可能な攻撃兵器として近い将来に登場すると期待し、同庁は「今日の」技術と呼んでいる。
  13. 「極超音速の実現化にあと一歩のところまで来ており、指向性エネルギーの実用化にも取り組んでいます。将来の米航空戦力の一部になることを期待しています」(ウォーカー)■

★ハーグ法廷の結論を受け米下院フォーブス議員が論点を整理



ここしばらくは南シナ海だけでなく中国周辺の事態に目が離せないことになりそうですね。中国が世界からの孤立化を防ぐために行動を改めるか(可能性は低い) 新たなレトリックを駆使するのか(すでにその傾向あり)わかりませんが、やんちゃな子どものような態度だけは自制してもらいたいものです。なんといっても核戦力まである国ですから。しかしメンツを潰された時の中国人は逆上するはずですから安心して眠られなくなりそうですね。

The National Interest


The Hague Has Ruled against China. Time to Enforce It.

The amphibious assault ship USS Peleliu transits the South China Sea. Flickr/U.S. Pacific Fleet
The amphibious assault ship USS Peleliu transits the South China Sea. Flickr/U.S. Pacific Fleet

July 12, 2016

UNCLOS仲裁法廷でフィリピン-中国間の領有権をめぐる意見の相違で司法判断が出たことで中国には2つの選択肢が生まれた。一方でアジア太平洋地域に広い可能性が出てきた。中国が今回の法廷の決定に示す反応でアジア安全保障の方向が決まるだけでなく第二次大戦後の国際秩序でも今後の姿が変わる。

大戦後の世界で米国は世界各地の協力国と紛争の平和的解決を原則とする国際的な仕組みづくりを模索し、国際法と規範の順守にこだわり、武力による国家目的の実現を排除してきた。この秩序は二度の世界大戦の灰燼から構築され、これまでの中国やアジア太平洋各国の繁栄を支え、過去70年間に大国間で戦闘は発生していない。

中国は繰り返し「責任ある大国」になりたいと表明してきたが、最近の行動が国際秩序に対する最大の脅威となっている。中国の経済力、拡大する軍事力ならびに他国の邪悪な意図の犠牲になってきたと主張しているため国際間の仕組みは困難な事態に直面させられている。

特に中国周辺国にとって難題は待った無しで、東シナ海から南シナ海、インドとの国境線で紛糾する中で中国は組織的に動いて事実の書き換えを目指している。その背後に武力行使をちらつかせている。南シナ海で人工構築物を建造し領有権主張の裏付けにする、東シナ海で防空識別圏を設定する、インド領アルナチャルプラデシュ近くで挑発的軍事行動を繰り返す、これらで中国は一貫して「力が正義だ」と国際政治で主張している。

そこで今回の決定だが、中国政府に真っ向から反駁する内容になっており、今回の係争事案だけでなく結論の形成過程が重要だ。フィリピンがUNCLOS法廷に提訴した事自体が米国及び協力国が戦後の世界で守ってきた価値観、原則に歩調を合わせている。フィリピンのような小国、開発途上国でも国際法規範に訴え中国のような大国を相手に成功をおさめられること自体が中国外相発言への反駁である。外相は「中国は大国であり他国は小国だ。これが現実だ」と中国の好戦的態度を正当化しようとした。

中国が今回の裁定内容を無視すれば、国際社会で建設的な態度を取る一員になるとの同国の公約が一気に虚しくなる。同時に国際秩序にへの深刻な脅威にもなる。世界第二位の経済大国が世界最大の軍事力で公然と自由を尊重する国際秩序を否定し、紛争の平和解決も認めないというのだ。その結果として国際安全保障への影響は深刻で北京の動きの一挙一動をモスクワ、テヘラン、平壌が注視しているはずだ。

米国は今こそ中国が司法判断を拒絶する事態に備えて態度を硬化させるべきで、場合によっては軍事手段でマニラとの紛糾の解決を模索すべきだ。米政府が空母打撃群二個を派遣する決定をしたのは妥当な対応だ。中国が決定内容に性急な反応を示した場合は、米政府は条約上の同盟国、協力国の側に立ち侵略を食い止め、我々の価値観や利益を守る姿勢を断固として示すべきだ。

今回の法廷の結論は中国が台頭してきた歴史で大きな変換点になり、戦後世界の仕組みに対して世界問題を修正主義的立場で見る中国の価値観が最もわかりやすい形で衝突したものといえよう。今回の決定への対応策を決めるのは中国自体だが、米国の選択肢はひとつしかない。断固としてフィリピンの友人たちの側に立ち、地域全体で普遍的価値観を守り、いかなる大国といえども軍事力やGDPの規模と関係なく、法の上には立てないとの原則を守ることである。

J・ランディ・フォーブス下院議員(共、ヴァージニア)は下院軍事員会シーパワー及び兵力投射小委員会の委員長であり、下院中国問題議員連盟の共同ホッ金人でもある。


2016年7月12日火曜日

★南シナ海対立はもっと深刻な問題に拡大しないか心配される



いよいよ12日(現地時間)国際仲裁裁判所が結論を出しますが、意味がない、根拠が無い、従うつもりは毛頭ないと、ますます中国は不良ぶりを示しているようです。それだけならいいのですが、武力衝突の危険が著しく増えると見るのが普通の見方で、南シナ海がきな臭いことになれば日本経済もお先真っ暗になってしまうのですが、この国は本当にのんきですね。


The National Interest


South China Sea Showdown: Part of a Much Bigger Nightmare

July 11, 2016

  1. 明らかな予測結果をあえて口にすることが良い場合がある。南シナ海をめぐる中国対フィリピンの係争問題で国際仲裁裁判所が明日司法判断を下すがその行方は明らかだ。何が起ころうと、裁定内容にかかわらず、緊張をはらむ同海域は中華人民共和国と領有を主張する多数国がにらみ合い、更に中国と米国も対立する。どう見ても事態は悪化を重ねそうで、おそらく急速に展開するだろう。
  2. まず南シナ海をめぐる中国とフィリピンの二国間の課題を見てみよう。仲裁裁判所が中国の主張の少なくとも一部を無効と宣言するのは確実と見られる。中国はフィリピンからスカボロ礁を2012年に奪い領有宣言しているが,これは岩礁であり200マイルの経済専管水域の要件を満たさず、中国が主張する九段線で南シナ海の85%を自国領海とする論拠が崩れる。
  3. 当然中国は烈火のごとく反論をしてくるだろうし、すでにもう行っている。習近平主席は数日前に「面倒な事態は怖くない」と他の中国関係者同様の発言をしている。だが中国からは交渉も可能との暗示も出ており、フィリピンも協議に前向きな姿勢を示している。
  4. 問題は中国がスカボロ礁のみならず南シナ海の領有を主張していることだ。声明の内容及び回数を見ると、中国は交渉の余地を残していない。さらに交渉したとなれば中国国民も怒りにかられ政府は弱さを露呈したと決めつけ、中国共産党が一番恐れる事態である国内騒乱につながりかねない。
  5. アジア太平洋更に広くインド太平洋地区に不幸なことに交渉しても即座に失敗に終わるか、時間をかけて何の合意形成もできないだろう。どちらにせよ中国は力の行使に出てくるだろう。防空識別圏(ADIZ)を設定するか、スカボロ礁でも浚渫工事、軍事基地建設を始めるだろう。
  6. 中比関係以外にも影響が出る。例えばヴィエトナムが自国も国際仲裁裁判所に法的な解決を求めようとするかもしれない。日本も尖閣問題を法廷に持ち込むか南シナ海での集団訴訟に加わるかもしれない。(日本の原油輸入の6割がこの海域を通過することがポイントだ)
  7. フィリピンと中国の交渉が実現しても決裂するのが関の山だろう。中国としては強硬策しか選択がないと見るだろう。
  8. 真の試練は米中関係だ。現時点で中国は南シナ海で海軍演習を終えようとしており、米国は空母打撃群一個を派遣中でフィリピンに交代で配備中の航空部隊がある。緊張が一気に高まれば米国は必要な対応が取れる体制にあり、中国がADIZを一方的に宣言すれば、空母艦載機あるいは陸上機でこれに挑戦し新たな段階の航行の自由作戦を開始する、あるいはフィリピンとの条約を尊重し、あるいは他国との関係を尊重し一番恐ろしい事態になるかもしれない。
  9. だがもう一つ大きな問題があり、こちらはすぐ解決できそうにない。中国は大国として現状のアジア太平洋国家間の仕組みは自国の目指す権益や要求に適合していないと感じている。中国は国力がまだ弱い段階では日本が尖閣諸島を実効支配し、東シナ海の覇権を握る事を容認していたが、経済力も軍事力も強大になった現在でもそのままとは思えない。中国の定義では台湾は反乱地方の扱いで冷戦の産物としているが、遅かれ早かれ再度前面に出そうだ。
  10. 中国は南シナ海での自国経済力、軍事力の存在感は圧倒的で発言力も最大になってしかるべきと見る。台頭する国家として地域内秩序は新体制にはふさわしくないと見る。同時に米国には自分のことだけ心配しろ、この地方に構うな、中国の動きを封じ込めたり制限するな、今だけでなく未来永劫に、というのが中国の意向だ。まさしくツキディデスの罠で戦争は不可避になり、更に地域内で拡大するだろう。
  11. ということで準備を怠りなく。この数日あるいは数週間は相当荒っぽい展開になりそうだ。しかしながら南シナ海問題は実はもっと大きな問題の断面に過ぎず、大問題が綺麗な形で終結することは少ないのは歴史が示している。■
Harry J. Kazianis is a Senior Fellow for Defense Policy at the Center for the National Interest and Senior Editor at The National Interest Magazine. You can follow him on Twitter: @Grecianformula.
Image: Flickr.