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地政学で考える。 中国のA2AD戦略を中国に向け使えばどうなるか


Time to Use China's A2/AD Military Strategy Against Them

中国のA2/AD戦略を逆に中国に使う時が来た

A U.S. access-denial strategy, then, would impose a hard fate on China. Which is the point. Threatening fearful consequences could deter Beijing from aggression tomorrow morning, and the next.
米国が接近阻止戦略を取れば、中国に深刻な影響を与え、強硬な態度は取れなくなる
January 20, 2019  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Buzz  Tags: ChinaAmericaA2/adSouth China SeaU.S. Navy

週はペンタゴンから中国に関する資料が二点続けて公開された。まず国防情報局(DIA)が中国の軍事力報告を冷戦時のソ連の軍事力評価にならう形で発表した。人民解放軍(PLA)に詳しい筋には同報告書には驚く内容は少ないが初心者やしばらく情報に接していない方には有益だろう。興味のある向きは下リンクを参照してもらいたい。
DIA報告に続きペンタゴンが「中国のグローバルアクセス拡大に対応する米国防体制の評価」を発表し、中国の「大戦略」を評価している。こちらのほうが短く、一読の価値はあるだろう。
「大戦略」の言葉を編み出したのは英国の軍人著述家B・H・リデル=ハートで大作「戦略論」(1954年)で大戦略とは外交力、経済力、文化、軍事力を使いこなして「平和状態」を向上していくことにあり、武力を用いずにこれを実現するのが望ましいとした。大戦略思考では高所から大局を捉える。
「中国のグローバルアクセス」の編者は「アクセス」の用語を正しく選んでいる。中国の大戦略は世界各地につながるアクセスを確保することにかかっているからだ。中国も海上輸送での物資輸送に依存する点で他の交易国と変わらない。貨物船には海外の寄港先がなければ貨物の積み下ろしができず本国への輸送もできない。
海洋戦略とは大戦略を海上で展開することにほかならない。
そこでアルフレッド・セイヤー・マハン大佐が登場する。中国の海洋戦略の先祖と言って良い大佐にとって海洋戦略の目的ならびに原動力はアクセスそのものだ。米国を海洋国家に導いた思想家としてマハンは商業、政治、軍事それぞれのアクセスを重要な交易相手に確保しておくことが海洋戦略の目的と説いた。
マハンは商業取引を最上段においた。海上交通を重要視する各国は交易アクセスに有益なアクセスを外交で求めるが、軍事アクセスで外交、交易のアクセスが容易になることもある。アクセスにより動きのサイクルが生まれる。国内製造業は海外市場で製品を関税を払ってでも販売して収入を確保し、これを海軍力整備にまわす。海軍は商品の海上輸送を守り、敵対勢力には海上交通路を閉鎖する。
大戦略での海上交通関連部分ではこの相互作用が産業、外交、軍事各面の活動に見られる。中国政府はこれを骨身にしみるほど熟知している。
マハンの時代のアメリカと違い中国にとってアクセスは容易ではない。当時も今と同じく、政治地図では米国は大西洋、太平洋で邪悪な隣国から自由であった。逆に中国には地理が逆作用となる。当時でも中国は上海や天津に遠隔地から到来する船舶に苛立っていたはずだ。
それは中国の船舶往来は必ず「第一列島線」として日本南部から台湾、フィリピン、インドネシアにつながる島しょを通過する必要があるからだ。この島しょ部分に強力な米海軍空軍部隊が駐留しており、各国は米国の同盟国友邦国であり、中国の敵となる。
言い換えれば、中国に経済、地政学の恩恵をもたらすはずの船舶航空機は敵性国の軍事力の影を意識して往来する必要がある。戦略地図では大国としては珍しい形で中国の野望が妨害を受けているのだ。
.PLA海軍創設時の戦略家劉華清Liu Huaqing提督たちが第一列島線を「金属の鎖」と表現し、これを突破しないと習近平主席が好んで使う「中国の夢」は達成できないと考えたのは当然だろう。第一列島線を突破すべく一部の占領や台湾あるいは米国の同盟国を外交手段ででたらしこむことが戦略的勝利に欠かせない。
アクセスが成功を呼ぶ。このマハン流の考えは「中国のグローバルアクセス」に一貫して流れている。
植民地時代を扱う歴史家は交易が先で国旗が続いたのか、国旗に交易が続いたのかを問うことが多い。商業上の利益追求から交易地につながるアクセスが生まれ、外交軍事面の保護が必要となった、つまり国旗だが、あるいは外交団や軍人が先に乗り込んで安全を確保してから商業活動が続いたのかという議論である。
マハンは同時に実現可能と主張していたようだ。米国が産業基盤と商業活動を確立し、商船隊と海軍部隊を建造し遠隔地の海港へのアクセスを追求すべきと熱く説いた。また商業活動、艦船、港湾拠点を海洋力の「鎖」の3つの「リンク」と好んで呼んでいた。3つを同時にリンクしたかったのだ。
今回の報告書をまとめた専門家は意図的かは別に中国がマハン教義を忠実に守る立場を捨てたと暗示している。中国が外交経済両面で外界へのアクセス確保をめざしているのは事実だが軍事アクセスがその後を追うこともある。その例としてPLA海軍がアデン湾に戦隊を十年近く配備しており、また世界各地に遠洋航海をしている。ただし西インド洋を除けば中国海軍はプレゼンスを常時確保できていない。
そこで中国の東アジア以遠での大戦略の護り手は非軍事手段である、いまのところは。
このパターンは地理条件から生まれた。中国が「遠隔海域」のインド洋や地中海でなにか達成しようとれば商船隊や海軍艦艇を本国周辺の「近海」から現地に派遣する必要がある。遠隔地での活動を考えると中国周辺海域から西太平洋へのアクセスの確保が必須と判明した。
.興味深いことに「中国のグローバルアクセス」は米国による戦略対応策に触れていない。当然必要だろう。ユーラシアへの商業、政治、軍事各面のアクセスこそマハン時代から一貫して米国の大戦略の中心課題であり、マハン自身がこれを主張していた。
中国、ロシア、その他沿岸国が「接近阻止領域拒否」に役立つ兵器を展開し米海軍を近づけまいとしているためアクセスが今や危険に立たされている。在日米軍基地他列島線上の軍事施設へのアクセスがなければ米国は意味のある戦略上の役割を果たせなくなる。
アクセス確保こそ米軍の最重要課題と考えるだろう。
.逆にペンタゴンが接近阻止領域拒否戦略を打ち出せば良い。PLAと中国共産党が海洋アクセス確保に必死になるのは列島線でアクセスを否定されれば中国は世界と貿易できなくなるためだ。
マハン教義を応用して列島線内の水路を封鎖すれば植物の根を枯らすと同じ効果になる。中国の商船隊やPLA海軍が外洋に出られなくなる。中国の夢の実現には貿易が死活的な意味を持つのだ。
  • この過程で地理上の利点は消える。
  • 米国がアクセス拒否戦略を取れば中国の運命は悲惨だ。これが重要だ。恐ろしい結果をちらつかせれば中国は強硬策を翌日に引っ込める。その次の日も。習近平一味が忍耐するしかないと気づくのではないか。中国、アジア、世界は共存に向かう。
  • アクセスの重要性を再認識することで道は開く。■
  • James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College, coauthor of Red Star over the Pacific (new in print last month), and author of A Brief Guide to Maritime Strategy (forthcoming this November). The views voiced here are his alone.​
  • Image: Flickr

コメント: マハン、なつかしいですね。米国よりも熱心にマハンの著作を貪るように呼んでいたのは帝国海軍士官でしたが、PLAでも熱心な読者がいたのですね。中国があれほど強硬な態度に出るのはそれだけ自国が不利な条件にあるからであり、自由主義圏はこれを意識した「封じ込め」で中国を「正しい」方向に導き、軍拡をやめ、経済の活性化に資源をまわす、というシナリオでしょうか。

コメント

  1. ぼたんのちから2019年1月23日 9:38

    ジョージ・フリードマンは「100年予測」で、中国は「島国」であると地政学的解釈を述べている。中国は、北と西が砂漠と荒れ地と高原であり、南は山脈と密林により隔絶され、唯一東が海に面している。しかし、その海は多くの島々に囲まれた閉鎖海域である。
    習が叫ぶ「中華の復興」の背景に、中国の「島国」根性である中華思想が横たわっている。
    中国は、覇権を獲得しようとし、自国の地政学的閉鎖性を打破しようともがいている。そのためには閉鎖海域を完全に支配下におさめ、大洋に進出することが必要となる。これらの海域は、日本と同様に、中国の貿易の生命線でもある。今のところその戦略はうまく機能しているのかもしれない。
    しかし、中国の戦略は米国や中国の周辺国との抜き差しならない対立を生むことになる。ホームズ先生は中国の戦略に対抗し、その地政学的弱点を衝く戦略を採るべきと述べている。その戦略は中国に対するA2/AD軍事戦略であり、日本の「大戦略」の一部となるべきものと考える。
    既に日本はA2/AD戦略の一部を実行している。南西諸島での対艦ミサイル配備、いずも「空母」化はその一環であり、また、昨年の南シナ海での海自潜水艦を交えた対潜訓練はその実行力を示したものである。これらは強力な抑止力になる。
    最近の米国の厳しい対中政策は、貿易のみならず政治、外交、軍事を含む全面的なものに変わっている。この政策変更の背景に、習を含む中国指導部の一部に軍事的冒険も辞さない一派が主導権を握りつつあるとの評価があるのかもしれない。
    もし、そうであるなら、日本は、不安な将来を安定化させるため、抑止力の強化がさらに必要になるだろう。

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