2012年12月22日土曜日

米海軍空母の建造整備は順調、エンタープライズ退役

U.S. Navy Aircraft Carrier Programs Steaming Ahead



aviationweek.com December 13, 2012

たった一年前には航空母艦の将来に暗雲が横たわっていた。大型揚陸艦が空母と同様の任務をこなせること、空母建造の費用が巨額であることから国防関連アナリストの間では空母部隊の削減も発生すると予測していたものだ。
  1. それが今では空母運用はペンタゴンの予算戦略の中にしっかりと定着しており、予算の強制執行停止の恐れの中でもびくともせず、艦船数削減の話はどこにも出ていない状況だ。
  2. 海軍は次世代空母フォード級に建造予算割り当てや関連契約の継続に力を入れるのみならず、ほかにも大規模改修や原子力動力艦船の退役処置など順調に業務が進んでいる。
  3. 新 造空母 ジョージ H.W. ブッシュCVN-77 USS George H.W. Bush は今月に公試をはじめており、2013年の就役にそなえ、今後四ヶ月間かけて運用能力整備planned incremental availability (PIA) をノーフォーク海軍工廠Norfolk Naval Shipyard (NNSY)で行う。
  4. 海上公試の内容には高速方向転換、水生皮膜形成泡aqueous film forming foam (AFFF)消火テスト、海錨テストなどである。
  5. .カタパルト、着艦拘束装置、燃料ホース・ポンプほかすべての機器も検査対象として正常作動を確認のうえ次の段階の飛行甲板認証flight deck certificationを1月に行う。
  6. 公試は航空関連部門が飛行業務を支援する準備に進む大きな一歩として、艦を極限の性能まで追い込み、システムにプレッシャーをかけて各部門が戦闘状況に耐えられ、ミッションの要求水準を満たせるかを確かめものと海軍は説明する。
  7. ほぼ並行してエンタープライズCVN-65 USS Enterprise、世界初の原子力推進航空母艦、が第25回目にして最終の任務配備を終え、母港であるノーフォーク海軍基地に戻ってきた。同基地で核不活性化および退役する。
  8. エンタープライズはほぼすべての主要有事状況に投入されており、1962年のキューバミサイル危機、ベトナム戦争では六回の任務配備、冷戦を通じ湾岸戦争にまで及ぶ。
  9. .ニューポート・ニューズ造船(ハンティントン・インガルス産業傘下)が同艦の核燃料取り出しの準備を始めている。
  10. 海軍はフォード級空母三番艦をエンタープライズと命名する予定と発表している。■

2012年12月20日木曜日

2013年のミサイル防衛庁テスト予定が明らかになりました

MDA Lays Out 2013 Testing Plans

By Amy Butler

aviationweek.com December 11, 2012

米ミサイル防衛庁Missile Defense Agency (MDA) は複数目標に迎撃ミサイル複数で対応する実験を準備中。これは複数のミサイルが同時に発射される事態を想定してミサイル防衛の実効性を高める狙いがある。
  1. 10 月25日の実験では5発の標的のうち4基の迎撃に成功している。イージス艦が発射したSM-3ブロックIAの一発が目標の短距離弾道ミサイル目標迎撃にな ぜ失敗したのかMDAからは説明はない。しかし同じく艦上発射のSM-2ブロックIIIAは対艦ミサイルを迎撃している。
  2. . ロッキード・マーティンの最終段階高高度地域防衛Terminal High-Altitude Area Defense (Thaad) システムは中距離弾道ミサイル一基の破壊に成功しペイトリオット性能向上型Patriot Advanced Capability (PAC)-3は二基を破壊している。短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルだ。
  3. ペンタゴンは次回テストを6月までに実施する予定だ。実験のあらましはまだ不明だが、Thaadは再度使用されると関係者は言う。
  4. .この実験がMDAの多忙な2013年テスト予定の要となるだろう。
  5. .地上配備型中間段階防衛Ground-Based Midcourse Defense (GMD) も来年に試射予定がある。その結果により迎撃テストが夏に実施される。
  6. 地 上配備型迎撃ミサイルGround-Based Interceptor (GBI)(オービタルOrbital製)とレイセオン製の大気圏外迎撃能力向上策2 Exoatmopsheric Kill Vehicle Capability Enhancement 2  (衝突破壊メカニズムの改良)を組み合わせる策は迎撃事例の成功がでるまで保留だ。GMDの整備はボーイングが統括している。
  7. 一方でMDAはレイセオンのSM-3ブロック1Bの迎撃テスト二回を計画中。1月、3月に実施し、短距離弾道ミサイル目標が飛行中に分離する想定。
  8. MDAにはThaadの実用テストを来年に行う予定はない。ただしThaadが大規模作戦演習に組み入れられて参加する可能性はある。
  9. . 陸軍主導の中距離拡大防空システムMedium Extended Air Defense System (Meads)は来年末に二回目の試射を予定。一回目は11月29日にMQM-107ターボジェット標的機に命中、墜落に成功している。二回目では戦域弾 道ミサイル防衛を想定した標的を目標にする。
  10. なお同システムは国際共同開発で米国が58%負担してきたが、米政府は開発が終了する来年末で参加を終える予定。25%負担しているドイツ、17%のイタリアはそれぞれ生産の継続をどうするかを検討する。
  11. 米陸軍からは同システムのうち360度監視レーダーへの関心が示されたが、予算確保のめどがない。■


2012年12月16日日曜日

イスラエル、日本向け防衛システム販売承認

U.S. Approves Sales Of Precision Bomb Kits To Israel

aviationweek.com December 10, 2012

ペンタゴンから議会に対し月曜日に通告があり、イスラエル向けにボーイング製約7,000発の精密爆弾キットをその他弾薬含めおよそ647百万ドルで売却する承認を同省が与えたことがわかった。
国 防安全保障協力庁Defense Security Cooperation Agencyは海外向け武器販売を監督しており、同庁によるとイスラエルから合計6,900発の統合直接攻撃弾薬Joint Direct Attack Munitionはじめ数千のその他弾薬購入の申請があった。
  1. 米議会には30日の間にこの販売を差し止める権限があるが、実際に行使されることはまれ。販売に先立ち精査されたうえで通告があるからだ。
  2. JDAMキットを生産しているのはボーイングだが、その他の契約企業にはアライアントテックシステムズロッキード・マーティンジェネラルダイナミクスレイセオンがある。
  3. ペンタゴンより今回の売買でイスラエルは現在運用中のシステムの作戦能力を向上できると発表があった。「米国はイスラエルの安全に責任を有し、イスラエルを支援し強力かつ即応力のある自衛体制整備をはかることは米国の利益にもなり最重要課題だ」

U.S. Approves Upgrades Of Japan's Aegis Missile Systems

December 10, 2012
.同じく月曜日に国防総省から議会に通告があり、同省が総額421百万ドルで日本にイージスミサイル防衛システム(ロッキード・マーティン製)の性能改修にともなう販売申請を許可したと判明した。
  1. 国防安全保障協力庁によると日本より運用中のあたご級護衛艦のうち2隻の近代化改修の要請があった。米議会には本件を差し止めることが30日の間で可能だが、実際には差し止めはまれ。
  2. 議会が承認すればロッキードが主契約企業となる。販売にはイージス戦闘システムズ、レーダーシステムズ向け新型プロセッサー、画像表示卓、壁面ビデオ表示ならびに性能向上型主砲およびセンサー類が含まれる。
  3. ペンタゴンの説明は日本に防空戦闘の大幅な能力向上手段を提供することは米国の安全保障上の目的に合致するというもの。


2012年12月13日木曜日

CIA運用のUAVが展開する秘密戦は米国戦略の重大要素

CIA Drones Help Wage Secret Wars

By Sharon Weinberger Washington


aviationweek.com December 03, 2012

オバマ政権がCIAの問題となっていた無人機プレデター、リーパー部隊を解隊すると四年前に信じ込んでいた向きは今回の選挙期間中に大統領が言っていたことを聞き逃している。発言内容をよく読めば、大統領が無人機によるテロリスト暗殺を一度も批判していないことがわかる。
  1. 発言中にアルカイダ幹部を標的にした強硬なパキスタンでの作戦支援の片鱗が見える。「アルカイダ幹部が2005年に集まっていた機会に行動しなかった のは大きな誤りだ。」と初当選前の選挙期間中に発言している。「アクションを取れる情報があり、大物テロリストの標的がいるのにムシャラフ大統領が行動しないのなら、こちらがするまでだ」
  2. これこそ同政権がUAVの使用して実行していることだ。SEAL部隊でオサマ・ビン・ラディン殺害を許可したがその唯一の例ではない。
  3. さ らにオバマ大統領自らが承認したいわゆる「殺害対象者リスト」があり、アルカイダ関係者で暗殺対象としてCIAの秘密UAV部隊にねらわれているものが いることはニューヨークタイムズが既に報道している。このリストでは追加が続いているようだ。またアフリカ内の基地拡張によりオバマ政権は武装UAVを軍 事戦略の中心におこうとしている。
  4. .秘密が秘密でなくなったらそれはもう秘密とはいえない。CIAが独自のUAVを運用して攻撃任務の相当部分特にアフガニスタン国境外で実施しているのは公知の事実だ。
  5. 近年になり情報が漏れてくるようになり、CIAがどこでどんな形で無人機による攻撃を加えているかがわかってきたが、詳しいことは大部分があいまいなまま だ。たとえばCIAが運用するUAV機数はよくわかっていない。2006年時点でプレデター、リーパー生産ラインに米空軍向け以外の機体が混じっており、 CIA向け機体はUSAF向け契約の中に紛れ込んでいない可能性が指摘されていた。ただし攻撃回数自体が物語っており、この4年間で致死的攻撃の回数は増 える一方で、減る兆候がない。オバマ政権二期目ではUAVを利用した作戦は強化されそうだ。
  6. CIA が実施するのが「人目の届かない形の戦争」であるのに対し、堂々と米軍が実施している攻撃との区別は明確にはなっておらず、軍と情報機関で密接に作戦を統 合している可能性がある。たとえばCIAには自ら運用する無人機用の支援組織がなく、空軍の人員・施設を利用することが多いので、軍がCIAと攻撃目標を 運用地区ごとに交換している可能性がある。
  7. . 無人機による秘密作戦で驚かされるのは米軍とCIAの隠密作戦の統合の様子が見えてくることだ。両組織は共同航空作戦センターのような基盤設備を利 用して作戦を調整している。2011年にデイビッド・ペトレアス(元アフガニスタン派遣軍指揮官の大将)がCIA長官に任命されたことで軍とCIAの関係 はより密接になった。(同長官辞任で今後どうなるかは注目される)
  8. 報道や一般の関心は「闇の」戦闘に傾きがちだが、公表データを見る限り無人機の活躍の中心は依然としてアフガニスタン国内である。米軍は2012年中に 10月末現在で合計333回の攻撃を実施していることが米中央軍資料でわかる。またアフガニスタンでの無人機攻撃回数は2009年から連続して伸びてい る。
  9. ただしパキスタンではCIAと軍の作戦が明確に分かれており、アルカイダ狩りの中心はCIAのUAVだ。パキスタンではCIAにより秘密裏に無人機が運用さ れていることが関心を集めている。事実、実行されている作戦は米関係者が言及を拒むような秘密の世界の話なのだが、実施されていること自体は公に認められ ており、パキスタン政府も攻撃を承認しておきながら、表向きは批判しているのだ。
  10. た だしあいまいさの一部が今年になり解消された。オバマ大統領が攻撃の事実を初めて公式に認めたため。大統領が言及したのはパキスタン国内の事例で「大部分ではきわめて正確な攻撃をアルカイダおよびその関連に対して行っており、実施は慎重に行っている」と発言があった。
  11. さらに攻撃対象は「有力テロリスト名簿に載っている人物で該当地区に侵入し、アメリカ国民の人命を狙い、アメリカの施設を攻撃する者などだ」と言及していた。パキスタンでの無人機使用は米軍が直接侵攻して作戦実施が不可能な地形のため認められたとしていた
  12. 大統領発言に新しい情報は含まれていないが、大統領がこれまで認めてこなかった事実を認めたこと自体が大きな政策転換だといえる。またアフガニスタン国境の外で無人機を使った攻撃が急速に増えていることを反映している。
  13. ニュー アメリカ財団New America Foundationはワシントンに本部を置くシンクタンクでパキスタン国内の攻撃事例を報道内容からまとめており、無人機攻撃がオバマ政権でピークに なったのは2010年の122件だったのにたいし、2012年は今までのところわずか43件しかないという。2011年合計が72年だったのでさらに今年 に入り減っているようだ。ただし秘密の壁により本当の攻撃回数は不明だ。同財団の試算では2011年の死亡推定は209名から328名の間で、この幅その ものが自由な報道が対象地域から入ってこない事実のあらわれだ。
  14. ただしUAV攻撃回数を増やしているのは米国だけではない。英国はアフガニスタンで248回実施しているのが2012年2月に英国政府文書から判明している。集計をした当事者によると攻撃のうち公表されているのはわずか40%だけだという。
  15. ア フガニスタン以外ではキャンプレモニエCamp Lemonier (ジブチ)が米軍プレデター、リーパー運用のハブとなっており、同時にイエメン国内でのCIAによる攻撃の発進基地になっている。さらに米軍はUAV用に 二箇所の基地を開設したといわれる。エチオピアとセイシェル諸島であり、ソマリア国内の過激派はじめアフリカ各地で攻撃対象を増やす米国の戦略に呼 応したものだ。
  16. .特にイエメンはアルカイダのアラビア半島での本拠地で米軍の無人機攻撃の最前線だ。同地での米国戦略は攻撃実施を認めた同国の政治指導層に加え同戦略を容認する世論により助けられている。
  17. イ エメンの新大統領アブド・ラボ・マンスール・アルハジAbd Rabbo Mansur al-Hadiは自身の空軍体験も振り返り、米軍の攻撃が「高精密」であると賞賛している。「電子頭脳による精度は人間の頭脳とは比べ物にならない水準」 と同大統領は訪米時に語っている。あわせて米軍による攻撃すべてを容認していると報道陣に語っている。攻撃実施は米国がイエメンにある合同作戦センターを 通じて調整している。
  18. . 無人機攻撃を容認するイエメンはパキスタンと対照的だ。イエメンでの攻撃はより限定的で、一般市民の巻き添え死亡事例もこれまで少なく、世論の反発も少数 だった。もっと根本的に見るとイエメンでの攻撃は同国政府に脅威を与える集団そのものをねらったものなので、同大統領が外国による介入を支援するのはもっともなことだ。ただし9月の攻撃で十数名の死傷者が発生したため、風向きが変わるかもしれない。
  19. 無人機の運用でパイロットを危険から解放する効果を協調する向きが多いが、実のところ無人機の利点は技術面よりも政治上で多く見られる。操縦者がいないこ とで米軍機の作戦飛行をこれまで考えていなかった各国で実施できる。米軍のF-16に武器を搭載してパキスタンやイエメン国内でテロリスト狩りを実施するのは考えられないが、CIAが運用する武装無人機であれば政治的に好ましい選択肢になる。
  20. CIA による無人機運用の形態で米政府は比較的道徳的とはいえない作戦をこれまで十年以上にわたり実施している。そのような作戦実施を認めた一方、議会の公開委員会では議論対象からはずしており、政権関係者も公開の場で論じることはない。UAVとCIAの組み合わせで米国は米軍が軍事作戦を展開する以外の場所に作戦を拡大し、これまで米国が作戦実施を一度も検討したことのないような各国にも拡大できているのだ。■


2012年12月8日土曜日

米空軍の秘密開発爆撃機、ISR機材の存在を読み取る

我々の知らない間に大型無人ISR機(爆撃機?)がすでに完成しているようです。そしてエリア51でテスト飛行が実施されており、裏予算の手当も済んでいると見受けられます。やや長文ですがご容赦ください。

Reading Secret USAF Bomber, ISR Plans



aviationweek.com December 03, 2012

ス テルス技術の応用に情報収集・監視・偵察(ISR)用無人機が選択されるのは明白だ。ISR機には機動性や超音速飛行が必要でなく、この2つの要求がある とステルス技術でも非常に高価になってしまう。UAVが接近拒否空域や制空権が確立されていない場所で生き残るためにステルスは必要な要素だ。
  1. も しミッションが探知されずに実施できれば二重のボーナスとなる。情報収集が邪魔されずに実施できるし、欺瞞やカモフラージュが不要となるからだ。米国がス テルスUAV開発を進めている唯一の国だというのはおどろくべきことで、複数ある米国のステルスUAV開発のうちひとつは業界の自己資金によるものだ。
  2. 同じように奇異なのは、太平洋の重要性や今後登場する長距離爆撃機long-range strike (LRS) の系列の重要性が言われる中でLRS-B 爆撃機がその中心として未だに姿を表していないことだ。
  3. この2つの謎に対する回答は闇の世界the black worldにある。ブラックISRや攻撃機の開発予算は以前から確保されており、表の航空機開発にも影響を与えている。ただし、殆どの情報提供の出所は明されることはない。
  4. ステルス技術の大部分はISRの世界からはじまっているのであり、これまでU-2機をステルス化する試みがあったが、失敗したのもそのひとつだ。ロッキードおよびジェネラル・ダイナミックスが競作した結果ロッキードA-12ブラックバードが生まれ、AQM-91コンパスアローUAVが完成した。その後の第二のステルス化の波が1970年代にやってきて、ノースロップのタシット・ブルー監視機が生まれている。
  5. 1983年当時は全ての関心はソ連に向けられており、ロッキードとボーイングが 共同開発で高性能空中偵察システムAdvanced Airborne Reconnaissance System (AARS) の製作に残った。同システムのコードネームはクォーツQuartzでソ連領空内にとどまり移動式ミサイル発射装置の場所を突き止めるのが目的だった。投じ られた予算は巨額になったが、CIAおよび国家偵察局National Reconnaissance Officeの要求内容が相互に食い違うことに苦しみ、クォーツは冷戦終結まで飛行は実現せず、結局1992年にキャンセルとなった。
  6. た だし、同機の外観はRQ-3AダークスターDarkStarに引き継がれ、同機もロッキード-ボーイング共同開発だった。もしダークスターがクォーツ向け の縮小型試験機だったとしたら、それが急速に同機が姿を表したことの説明になる。1995年に公表されたダークスターは翌年の第二回飛行で墜落してしま う。結局、同機も1999年に公式に取りやめとなった。それは米空軍が同機とグローバルホーク両方の調達に必要な予算がなかったためだった。
  7. 2001 年4月に海軍のEP-3E信号情報収集機と中国戦闘機の空中衝突事件が発生し、あらためて高高度長時間飛行可能UAVへの関心が呼び起こされた。数種類の 構想が提案されて、ロッキード・マーティンからはV字尾翼のディスタント・スターDistant Star (別名敵地侵攻高高度長距離飛行可能機)案もあったが当時は高解像度の宇宙配備レーダーの方が期待されていた。その結果、UAVへの期待は後退し、 2001年末あるいは2002年早々にロッキード・マーティンはずっと簡単な構造で中高度飛行の戦術ステルスUAV開発契約を獲得する。これがRQ- 170センティネルとして実現した。
  8. も うひとつ1990年代後半からの開発が大きな成果を生んだのが無人戦闘航空機unmanned combat air vehicle (UCAV) 構想だ。1999年にボーイングは国防高等研究プロジェクト庁Defense Advanced Research Projects Agency (Darpa) から契約を交付され、X-45AをUCAV実証機として製作している。
  9. ド ナルド・ラムズフェルド国防長官時代のペンタゴンでUCAVは迅速に勢いをつけていく。2002年に海軍は運用可能な機体を探していた。2003年に上記 UCAVはDarpaの各軍共通無人戦闘航空機システムJoint Unmanned Combat Air System (J-UCAS)となり、一号機が空軍で2010年に就役するものと期待された。しかし、強力な勢力がJ-UCASをばらばらにしようと立ちふさがった。
  10. 空軍はもっと大型の機体を求めており、空母搭載の制約を超えた寸法に関心を示していた。ノースロップ・グラマンがこの期待に対応して大型のX-47Cを双発、172フィートの翼巾で提案してきた。
  11. さ らに変化が2003年に発生し、空軍はJ-UCASを「グローバル爆撃可能機」“Global Strike Enabler” と定義した。空軍が想定したUCAVの役割は「敵地奥深く侵入し生き残ること」で厳重な防空体制の中に飛び込み、その後の有人機の到着までそのまま残り、 ミッションを貫徹しその場を立ち去ることだった。これにはUCAVのステルス性、飛行距離と航続時間が頼みで、空軍は2時間のミッション滞空時間と無補給 で1,000-nmの戦闘半径を想定していた。
  12. し かし敵防空網を2時間も制圧するだけの兵装を搭載することは極めて困難なため、空軍は航空電子戦airborne electronic attack (AEA) および情報戦闘システムinformation warfare systems.への関心を強める。ステルスUCAVは有人機よりも敵発信源に近づく事が可能で、妨害活動もより少ない出力での実施が可能だ。その当時の 空軍は「各種手段で情報戦を仕掛け、統合防空網を内部から崩壊させる手段の検討」をしていたという。情報戦は統合防空網が自動的に作動することに着目して 非常に有効な対抗策がという。
  13. UCAV にはISR任務に加え、空軍研究所のセンサー・クラフト計画Sensor Craft programが1990年代から求められている。センサー・クラフトとはクォーツの課題であったステルス性と高性能の両立をめざすもの。その中心には主 翼上の自然層流の維持があり、センサー類を機体構造内に搭載し、その他主翼の結合など特徴的なものもある。ノースロップ・グラマンではこのセンサー・クラ フトに自社独自研究の結果を組み合わせている。ロッキード・マーティンからは2006年にボールキャットPolecat 実証機が発表されており、狙いは同じだった。
  14. ま た2006年の四年間国防戦力検討によりJ-UCASは終了となった。その当時公表されていたおは海軍が艦載型実証機の開発を継続するということだった。 その時点でRQ-170はフライトテストを開始したばかりで、発注は20機弱のみだった。同機はより大型の機体が登場するまでのつなぎだとされていた。
  15. そこで極秘の計画がゆっくりと開始となり、宇宙レーダーとの競合が生まれた。同レーダーの信奉は国防総省上層部に根強かった。しかし、ペンタゴン人事異動で空軍の考える長距離無人戦闘用ISR/AEA機による敵防空網の破壊、機能低下構想が現実のものとなる。
  16. 今となってみるとノースロップ・グラマンに2008年早々に大型契約が交付されていたことがわかる。その時点では同契約は次世代爆撃機Next Generation Bomber (NGB)の実証機用だったと言われていたが、実は武装ISR機の開発契約であった。エンジンは単発で翼巾はグローバルホークとほ ぼ同寸で、X-47Bとほぼ類似の外観だが、もっと大きい主翼がついている。レーダー、電子監視装置とアクティブ電子戦装備を備え、おそらく小口径爆弾や ミニチュア航空発射型デコイ・ジャマーMiniature Air Launched Decoy-Jammer (MALD-J) を搭載する爆弾倉を有する。同時に通信中継機能communications gatewayを有し、通信衛星や高周波数無線で他の機体へ送信するのだろう。
  17. 新型UAVはCIAと共同開発で、この点はRQ-170と同じだが、空軍迅速能力開発室Air Force Rapid Capabilities Officeが統括している。同機はすでにグルーム湖でテスト飛行を実施している
  18. .他方で空軍とCIAが運行する少数のRQ-170各機は高い需要で中東堵太平洋で運用されている。このうちCIAが運用する機がオサマ・ビン・ラディン殺害作戦(2011年)で上空を飛行していたと言われる。
  19. 空 軍にとってJ-UCASの開発取消は次代の爆撃機の初期作戦能力を2018年に前倒しで整備する結果となり、当初は2037年とされていただけに相当の加 速だ。次世代爆撃機はいよいよ現実のものとなったが、公開予算では手当がない。IOC予定の前倒しやボーイングとロッキード・マーティンが合同事業体制を 急いで作ろうとしていることから、極秘予算の世界で計画実現の予算手当がすでにあったのであろうと推察される。
  20. 次 世代爆撃機の開発はロバート・ゲイツ国防長官(当時)が2009年に停止されており、当時は2018年のIOCには技術リスクがあり、経済破たんも停止理 由のひとつだったが、実は同計画は2010年に再始動されており、エアシーバトル構想が同機がないと実現できないというのがその理由だった。
  21. I 業界筋から本誌に対してロッキード・マーティンが「次世代爆撃機」(LRS-Bではない)を同社パームデイル工場(カリフォーニア州)で建造中であるとの 情報提供があった。2008年度予算で調達した部材の再利用と言われるが、計画全体の再始動はありえることだろう。ただし、もしそうであれば純粋な実証機 であるはずで、同機設計は2008年以降の変化を反映していないはずだからだ。
  22. ひ とつこの仮説を裏付ける要素がある。ノースロップ・グラマンとボーイングがこれまでLRS-Bを今後の成長機会ととらえていると市場アナリスト向けのプレ ゼンテーションで明らかにしている。ロッキード・マーティンは同じ表現をしていないのは実は同社がすでに新型爆撃機の契約をとっているからではないか。
  23. 2010 年時点の空軍プレゼンテーションでは引き続き「敵地侵攻型ISR機」“penetrating ISR”であり「侵攻・AEA代行」“penetrating, stand-in AEA”をLRSファミリー全体に共通の特徴として定義している。LRS-Bへ道をひらき、あわせて巡航ミサイルや迅速地球規模攻撃Prompt Global Strike 兵器体系向けの目標を探知するとしている。さらにこの発表では「提案中のシステム」とそれ以外を明確に区別しており、敵地侵入型ISRはそれ以外の扱いと して現実かつ予算手当のある計画であることがわかる。
  24. こ こでわかるのは空軍はステルスを依然信奉しているもの古典的といえる「単独行動、無警戒」モデルではなく、無人機を「任務実現手段」“enablers” として低出力、接近型ジャマーで敵防空網を妨害し、全方位型広帯域ステルス爆撃機で無人機を援護する構想なのだろう。この新装備がいつ公表されるかは興味 をそそる話題である。■


2012年12月4日火曜日

注目を集めた中国のステルスJ-31戦闘機とは安価な輸出専用機だったのか

Avic Promotes J-31 As An Export Fighter

By Bradley Perrett, Robert Hewson, Reuben Johnson, Bill Sweetman
aviationweek.com November 19, 2012

.中国国営航空宇宙産業が投入している経営資源にはとかく国外も目を奪われがちだが、中にステルス戦闘機を独自製作している企業があるとは気が付きにくかっただろう。
  1. 瀋陽航空機Shenyang Aircraftがその企業だ。ただ驚くべきは中国空軍が同社の努力成果を軽く鼻であしらっていることだ。登場時にはまったく非の打ち所のないステルス戦闘機と思われた同機だが、中国の次期中型戦闘航空機としては役不足のようだ。
  2. 既に実機が姿を現しているが、中国航空工業集団Avicは珠海航空ショーに同機の模型、非公式でにJ-31と呼称され瀋陽製といわれる戦闘機を展示した。Avicの説明では「同機は国際防衛市場むけに開発した」ことになっている。
  3. 展示模型には戦闘機コンセプトとの表示があったが、6月にトラックで輸送中の姿が目撃され、9月に飛行場近くに配備され、10月31日に初飛行した機体とさしたる違いなく、「31001」の番号までつけていた機体が、いまやコンセプト段階へ格下げである。
  4. .同機の設計思想は高性能ステルス性能を低価格で実現し、重武装かつ戦闘半径を大きくするというのがAvicの説明だ。離陸重量17.5トン、全長16.9 メートル、全高4.8メートル、翼幅11.5メートルだという。
  5. 初 飛行した機体はクリモフRD-93エンジン双発だったが開発陣は出力が不足だと判断していいる。瀋陽のライバル成都航空機Chengdu Aircraft,のJF-17(別名称FC-1)輸出用戦闘機にも搭載されているRD-93は推力19,000 lbだが、瀋陽は中国製エンジンを求めており、これはロシアがJ-31の海外販売に待ったをかけるのを防ぐ意味もある。試作機の写真を見る限りで同機のナ セルはもっと大型エンジン搭載も考慮されているようで、MiG-29のRD-33エンジンも候補だろう。そのほかにはAvicのエンジン部門貴州 Guizhou工場製のWS-13泰山Taishanエンジンも候補になるのかもしれない。
  6. Avicの説明ではJ-31の戦闘行動半径は内部タンクのみで1,250 km (780 mi.) 、外部タンクもつかって2,000 kmで、最大速度マッハ1.8、離陸必要長は400メートル、着陸時は600メートルが最低必要だという。
  7. 「運用上果は現行各機種または改修ずみ第四世代機を上回り、第五世代機とほぼ同程度」と言うのがAvic説明だ。ここでいう第五世代機はロッキード・マーティンF-22およびF-35をさしている。
  8. .J-31が瀋陽製だという根拠は同社が同様の形状をした飛行可能モデルを昨年に展示しており、F-60の名称をつけていたこと、実機と思われるものが6月にトラック輸送され、瀋陽から西安まで運搬されていることからだ。西安は中国のフライトテストセンターでもある。
  9. だ がJ-31の呼称自体が実は正しくないのかもしれない。同じようにJ-20の名称が成都製の大型機体につけられているが、これも確認されたものではない。 瀋陽製の同機はJ-21とも呼ばれているが、これも確かなものではない。J-20の存在は2010年末に明らかになり、2011年1月に初飛行している。 この機体は珠海ショーには出展されていない。
  10. まさにそこにこそJ-31の存在を裏付けるものがある。J-20が珠海に出展されていないのは、同機は海外に販売する意図がないことにくわえ、中国が同機の詳細を公開する意図がないためだ。これが中国空軍の考えだろう。
  11. 逆に言えば、珠海でJ-31のの展示があったことにより同機は輸出用に想定されているのか、あるいは中国空軍に同機への関心がないのだろう。中国では初期生産機体は空軍用に確保するのが常であり、現在の中型戦闘機である成都J-10でもこれが適用されている。
  12. すると瀋陽はなぜ同機開発に踏み切ったのか。可能性は絞られる。ひとつは軍が資金を出しての技術実証機材と言う可能性で、同社幹部は将来の本格開発で実用機になる可能性がると考えているのだろう。
  13. も うひとつは社内自己資金による開発でもっぱら輸出市場を狙うものではないか、同社も西側戦闘機が入手できない国があることを知っている。J-31はロシア 製各機と商談で勝負できるだろうし、瀋陽航空機も米国や欧州の西側装備メーカーが今後10年20年で生産を終了すれば調達先を広げる動きが出てくると皮算 用しているかもしれない。重要なのは中国製戦闘機は安価であることで、一応ステルス技術がついていてこれば訴求力が出る。
  14. 瀋 陽はこれとは別に中国海軍用の艦載戦闘機開発にも乗り出しており、J-31も一時は空母遼寧および後継艦向けに想定されていたのではないか。も思想だった としても現在はその可能性がないことになる。なぜなら海軍も空軍と同様にこれから運用する機材を一般展示することは望まないためだ。
  15. .J-20とJ-31の機体寸法の差は要求内容の差を意味している。さらにAvicはJ-31の国内使用に言及していない。
  16. 中国の内部事情に詳しい国外の航空宇宙産業幹部はJ-31の存在理由をこう説明する。「これは社内にエンジニアがたくさんいて、必要でない仕事をしてしまった会社の作品だ」
  17. 技 術実証機は初飛行したが、肝心の疑問は低視認性の開発はどこまで進んでいるのか、ステルス性を維持できるのか、重量増は発生しないのか、これらが不明のま まだ。さらに大きな課題が瀋陽および参加の部品メーカーにある。センサー類からのインプットをパイロットに伝え状況把握を可能とする電子装備を機体に収容 することだ。Avicは同機が最新鋭米国製機体と同等の性能を持つと公言しているので、この方向で作業しているのだろう。
  18. た だし簡単にこれは実現しないだろう。外観上は戦闘機に見える機体を飛ばすのと、実戦に耐える機体を作るのでは話がまったく違う。F-35が稼動開始するの はほぼ20年がX-35技術実証機が初飛行してから経過した後だ。同様に瀋陽には海外顧客が開発を支援したくなるような機体がないのが現状だ。
  19. J- 31を輸出専用機と想定する背景にはエイビオニクス技術の未発達と言う理由があるのだろう。中国空軍が運用するJ-10後継機としてちょうどよい機体外寸 であり、J-20より安価に大量生産できるはずだが。中国空軍もJ-10の改良発展に注力してからその成果をJ-20に活かすことに決めているのかもしれ ない。もうひとつの可能性は瀋陽あるいは成都が実はJ-31以上に高度な機体を開発中かもしれないという点だ。いずれにせよ現時点では答えはないのだが、 そもそも中国軍がJ-31を不要と考える理由は何か。
  20. J- 31の機体構成を見るとステルス性と通常型戦闘機の性能を両立させる設計であるとわかり、アフターバーナーなしでの超音速飛行はねらっていない。さらに機 体後部の構成で水平尾翼、垂直尾翼が2枚ずつになっており、設計の狙いは低レーダー反射と高迎え角の両立で戦闘時の操縦性を高めようとしているのがわか る。
  21. またこの機体後部の構成によりハードポイントを機体重心近くに設定でき、兵装搭載が容易になるので兵装組み合わせも増えるだろう。地上での同機写真では機体腹部に大型の兵装格納庫の開閉部が確認できる。
  22. .J-31模型の主翼前縁の角度は中程度になっている。レーダー反射を最小限にするためエンジンの空気取り入れ口につぎめのない分流板となっている。機首の寸法は大きくないので、格納できるレーダーアンテナも中程度の物に限られる。■


2012年12月2日日曜日

F-22、F-35の配備遅れで予定変更を迫られる米空軍、各国空軍: 西側戦闘機の実戦力維持は大丈夫か

Air Forces React To JSF Delays


aviationweek.com November 26, 2012

「第 五世代戦闘機」F-22およびF-35がともに予定の配備時期とコストで当初計画とのズレが生じていることから米国および同盟各国の戦闘機装備に連鎖影響 が生じており、米空軍ではF-22パイロット訓練を根本的に見直しているし、F-16の耐用年数延長と性能改修を急ぐことになる。
  1. .F- 22訓練は「劇的な変更」(第9空軍司令官ラリー・ウェルズ少将Maj. Gen. Larry Wells, commander of the U.S. Ninth Air Force)を受けている。ウェルズ少将はF-22部隊のほとんどを統括しており、10月にはティンダル空軍基地(フロリダ州)に配備中のF-22が空軍 教育訓練司令部から第9空軍に移管されてばかりだ。
  2. 大きな変化はF-15やF-16といった非ステルス機との合同演習の開始だ。これはF-35の引渡しが遅れる中で、F-22機数が少ないことで空軍としてもステルス機主体の機材運営が実現するのは2030年以降になってしまうという現実を直視した結果だ。
  3. .F-22パイロットは 「センサー編隊」として10ないし15 nmの距離をとって飛行し、ボーイングF-15C/Dの「クォーターバック」役をする訓練を受けている。
  4. 課 題のひとつが「F-22のひとりごと」だとウェルズ少将は言う。同機の搭載する飛行データリンクは別のF-22としか交信しないので「相互運用が完全にで きるまで相当の時間がかかる」という。また、F-22にリンク16戦術データの受信能力が2014年に搭載されるという。これは性能改修3.2アップグ レードの際に実施され、リンク16のデータ送信(位置情報、識別や追跡)は2015年予定。それまではF-22からは音声無線交信で他機材に連絡するしか 手段がない。
  5. 訓練ではそのほかにジャミングやそのほかの妨害手段に直面する想定のシミュレーションをパイロットが受けているという。「今まではいつも完全装備で飛んでいたが、今ではその逆に何かが使えない状況が生じており、日によって通信装備だったり、GPSだったりする」
  6. よ い面もある。ウェルズ少将によるとF-22の性能は向上しつつあり、それに呼応して訓練標準も改定されているという。「これまではF-22をF-15のよ うに飛ばしていました」という。同時にF-22に早く習熟できる対策も取られている。T-38訓練を終えた新人パイロットはF-16で「高性能導入」 “high-performance lead-in” 訓練8回を終了しないとラプターは飛ばせない。その理由は「T-38からそのままF-22に来たパイロットが成果を出していないことが判明した」ためだと いう。「F-35を導入しようとする各国でも配慮が必要な事象だ」ともいう。
  7. 空 軍はT-38をF-22の仮想敵機として配備している。「ステルス機同士の勝負では一番発生しやすいシナリオを再現できない」とウェルズ少将は指摘する。 F-22操縦の新人パイロットはそれまでにT-38を一年近く飛ばすことがある。「これもF-35導入国が考える必要がある点で、全機材がステルスになる としたら、訓練用の敵機役はどの機材にするべきでしょうか」
  8. F- 22は現在南西アジアに配備されていると同少将は言う。「F-22を戦闘に投入するには三つの必要事項があります。戦闘部隊司令官が同機投入を必要と判断 すること、利用可能な機材を集めること、そして国防長官が承認することです。ただしこれは今まで実行されていません」
  9. F- 35の初期作戦能力initial operational capability (IOC)獲得期日が依然として未定の中、米空軍は戦闘用エイビオニクス・プログラム延長パッケージCombat Avionics Programmed Extension Suite (Capes) 開発をF-16向けに開始しており、ロッキード・マーティンが唯一の入札者で主契約を交付されている。Capes構想は350機のF-16を2030年まで稼動可能とするもので、逆にF-35の調達機数が同時期に減ること意味する。
  10. Capes には海外からも関心が示されており、ポーランドもその一国だ。「JSFが遅れることが逆に好機になるのは各国が米国にF-16の本格改修実施の圧力をかけ ているため」とポーランドは見ている。同国には後期型ブロック52のF-16が48機あり、AESA(電子アクティブスキャン方式アレイ)レーダーや操縦 席ディスプレイで改良を加えるCapesをうまく取り入れたいと考えている。
  11. Capesには重要な変更を最近受けている。空軍が重要決定をロッキード・マーティンにゆだねたのだ。レイセオン製の高性能戦闘用レーダーAdvanced Combat Radar かノースロップ・グラマンの拡張機動性ビームレーダーScalable Agile Beam Radarかの選択だ。
  12. レ イセオンにとっては不愉快な選択になる。F-16全機、F-22、F-35搭載のレーダーはノースロップ・グラマン製で、空軍が何を考えているか見えてこ ない。ただし内部事情筋によれば「外部批判かわし」がねらいではないかという。対象レーダーは1,000基以上となり、これだけの規模の調達はこれが最後 かもしれず、政府内部にこのような選択の経験がある人材がいないというのが現実だ。
  13. ただし、韓国の国防調達計画庁Defense Acquisition Program AdministrationがBAEによる自国F-16の改修実施を7月に決めている。AESAレーダーの換装もその一部であるが、韓国には米国の動向が決まるまで決定を先延ばしにする圧力がかかっているという。
  14. .BAEシステムズが韓国案件を落札した背景にはロッキード・マーティンよりも価格で有利だったはずで、現在同社はCapes参加をもちかけられた複数国と商談中だ。ポーランド以外に関心を持つのは、シンガポール、ポルトガル、ギリシャだ。
  15. た だし米空軍予算でCapes計画に初期開発段階以降の予算手当てができているか不明だ。構想では各国とコンソーシアムを組み、費用分担を求めることになっ ていた。さらにCapesが各国共通で万能の解決策となるのか、現地事情にどれだけうまく適合するのか不明だ。たとえば、F-16の一部では電子戦システ ムの運用が必要とされているが、Capesではこの想定がないし、また電子戦を想定していない運用国もある。■


2012年12月1日土曜日

中国初の空母運用をどう見るべきか-空母戦闘群を中国は編成できるのか

China's Carrier: The Basics
           
by Bernard D. Cole
US Naval Institute November 27, 2012
                                                  

中国空母の運用状況を示す初のビデオを 見ると、中国が米国その他の海軍と同様な安全配慮をしていることがわかる。飛行甲板の要員が色別の服装をし、手信号を送っているがこれも国際標準に近いも のだ。各配置点には二名の水兵が配属されているようで、一人は「訓練中」なのだろう。あきらかに人民解放軍海軍People’s Liberation Army Navy (PLAN)は航空母艦運用の知見を獲得しつつあるようだ。ただし天候に恵まれた条件で、基本運用の域を脱していないが。
  1. .空母「遼寧」は長い建造期間を経て完成しており、建造素材に問題を抱えて構造に欠陥がある可能性があり、また搭載するのは圧縮蒸気による推進機関で保守点検と運用に困難がつきまということが知られている。
  2. 中 国がはじめて入手した空母は1985年のオーストラリア海軍を退役したメルボルンであり、技術陣がすみからすみまで調べ上げた後でスクラップにされた。そ のあとロシア製空母二隻が加わる。ミンスクとキエフであり、ともに海上テーマパークとして購入された。この二隻は「航空重巡洋艦」と呼称されていたもので あり、中国に到着した初の空母はワリャーグだった。
  3. 同 艦の建造は1985年にウクライナで始まっていたが、ソ連邦崩壊で1989年に中止となっていた。そのまま乾ドックで放置状態だった同艦を中国は約20百 万ドルで1998年に購入したが、トルコの反対でボスポラス海峡を通過できず、結局通過できたのは2001年になってしまった。途中で嵐に遭遇し、タグ ボートの曳航が外れる事態もあったが、中国大連に到着したのは2002年で、そこから8年かけて改装工事ののち完成させている                   
  4. 同 艦は初の公試を2011年8月に実施し、これで26年かけて完成したことになり、軍艦建造期間としても最長の部類だ。PLANに公式に編入したのは 2012年9月で遼寧の艦名、艦番号16が付いた。中国海軍の初の正式空母となり、海軍の70年代からの夢が実現した。同艦は航空要員向けの訓練艦として もっぱら使用される。また運用要員の訓練用にも使い、今後建造される中国製空母の乗員を育てる。
  5. 遼寧は海上公試後半から航空機運用を開始し、初の航空機離着艦を2012年11月実施し、J-15戦闘機二機の運用記録が公開されている。
  6. 遼 寧はスキージャンプ式の構造を航空甲板前方にもつが、カタパルトはない。ただし、拘束ケーブルがあり航空機を回収する。J-15とはロシア製Su-33を 中国で国産化したもので、降着装置を強化し、テイルフック、折りたたみ式主翼と空母運用を想定している。さらにPLANは新型ステルス機J-31を空母に 搭載するかもしれない。
  7. その他搭載機にはロシアが設計したKa-25や国産のZ-9ヘリコプターがあり、さらに、米国のE-2ホークアイに似た空中早期警戒機が開発中だという。
  8. この五年間でPLANに空母護衛用の艦船が就役している。旅洋IILuyang II 級誘導ミサイル駆逐艦はイージスシステムと類似した装備を搭載していることがわかっており、中国では地域防空戦闘任務ができる初の艦となり、遼寧の防衛の要となる。旅洲Luzhou級および旅洋I級ミサイル駆逐艦および江凱Jiangka級も空母防御に投入できるミサイル運用能力がある。
  9. 中国が空母戦闘群に潜水艦も加えるのであれば、93型商Shang級原子力攻撃潜水艦 (SSN) が適しているが、同級の建造がわずか二隻で完了しているのは次形式の95型SSN建造に切り替えるためかもしれない。.
  10. さ らに中国は洋上補給replenishment-at-sea (“unrep”) 能力を有する艦の建造を開始したが、2005年以降でもわずか二隻しか就航しておらず、中国が2008年から派遣しているアデン湾海賊対策の派遣部隊支援 に投入されている。新型補給艦の建造が伝えられている。
  11. 中国の空母運用は第一歩をはじめたばかりだが、今後数年間を訓練と経験の蓄積に使って運用能力を獲得できる。遼寧は母国を離れた海域に海軍力を投入する決意が中国にあることを示す意義があり、さらにドック型揚陸艦や病院船の建造もこの決意のあらわれだろう。
  12. 戦略面では遼寧の就役および航空機運用状況をはじめて公表したことは大きな成果であり東アジア水域におけるPLANの重みが増したといえる。同地域内の各国は非友好勢力となる可能性のある海軍が航空戦力を洋上に展開する能力を獲得した状況に直面しているのである■


 Bernard D. Coleは国家国防大学で米中関係論の教鞭をとる、米海軍退役士官。