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主張 ウクライナ問題をロシアの視点で見るとこうなる。NATO拡大がロシアの最大の懸念だ。

 

ウクライナをめぐりホワイトハウスが協議しているが、この問題はロシア側の視点と歴史から見る必要があると筆者はモスクワで何度も聞かされた。

立モスクワ国際関係研究所の招へいで2021年12月13日の週にモスクワを訪れ、米国が体験したヴィエトナム、イラク、アフガニスタンでの各戦役について、さらにジョー・バイデン政権の国防予算についてモスクワ軍備管理会議及びロシア政治学会で講演した。訪問のタイミングで米ロ関係が怪しくなっていた。ロシアがウクライナ国境地帯に数万名規模の部隊を集結させ、状況はロシアがクリミアを併合した2014年に似ていた。また12月はソ連邦崩壊30周年とも重なった。このため、各会合でウクライナ情勢が公式非公式問わず重くのしかかっていたのは当然といえよう。

 

筆者のプレゼンテーションはヴィエトナム、イラク、アフガニスタンで米国が成功を収められなかった理由に触れ、米軍の優位性があっても目指す目標に世論の支持を勝ち取れなかったと説明し、国内で支持を得られなかったことが後を引き、結果として大きな財務並びに人命の負担となった点に触れた。

 

ただしモスクワ滞在中にわかったのは2014年のようにウクライナ軍がロシア軍に敗退する可能性が低いことだ。ウクライナは緒戦で敗退しても戦闘意欲を失うことはない。この点についてニューヨークタイムズ報道ではウクライナイが民間人に訓練を開始しており、装備品を提供しロシア侵攻の場合に抵抗運動を開始する構えとある。ロシアの視点で見るとウクライナ侵攻が米国が体験したヴィエトナム、イラク、アフガニスタンと同様の状況になるのを懸念しているようだ。

 

モスクワで話を聞くとロシア国民でウクライナ侵攻を支持する声は少数派だとわかった。特に結果が出ないまま長期化するのを危惧している。

 

筆者は別の機会にロシア側専門家の反対意見にも触れた。ロシア側は米国が中国に焦点を当てすぎており、東欧でのロシア軍事活動のエスカレーションに対応する意欲も体制もできていないのではないかとみていた。専門家の一人がこう言っていた。米国の安全保障戦略は三つのCに振り回されている。チャイナ、コロナウィルス、気候変動のCだという。ただ筆者は米国の安全保障でこう説明した。民主党とバイデン政権は中国を重視しつつもその他の脅威を放置していない。事実、バイデン政権の国防支出はインフレを考慮するとトランプ政権を上回っている。またレーガン政権時の国防整備の最高水準を超えそうで、中国の3倍、ロシアの10倍以上の国防支出となる。

 

幸いにも筆者の訪ロ中にロシアはウクライナ侵攻に踏み切らなかった。プーチン=バイデンがウクライナをめぐり50分にわたる意見交換を行った。ロシア、米国は1月に直接会談しさらにこの問題を協議することで合意した。

 

この問題については歴史の面から、並びにロシアの視点でとらえる必要があると訪ロで痛感した。

 

まず、ロシアでは旧ソ連指導部がドイツ再統一を承認した際に米国からNATOに東欧各国の加盟はないと保証を受けたと主張している。実際に米政府関係者はNATOがロシア近くまで拡大することはないと確約しているようだ。旧ソ連最後の米大使だったジャック・マトロックはミハイル・ゴルバチョフに文書と口頭でドイツが再統一後にNATOに残ればNATOは東に延びることはないと確約していた。当時安全保障補佐官だったロバート・ゲイツ(後に国防長官になった)はNATOの東方拡大についてゴルバチョフ等への説明と違うと批判していた。

 

さらに旧ソ連指導部に確約したのは米政府関係者だけではなかった。ドイツ、フランス、英国の指導層も同じだった。この視点で支えとなるのが封じ込め政策の父ジョージ・ケナン含むかつて政府に奉職した専門家集団だ。ケナンは1997年に「NATO拡大は冷戦時の米国政策で決定的な過ちとなる。この決断はロシア外交を望ましくない方向へ進ませる結果となる」と批判していた。同じ意見は各界50名の専門家から出ており、ポール・ニッツェ、ジャック・マトロックはビル・クリントン大統領に公開書簡を送り、NATO拡大は歴史的な愚策と指摘していた。

 

にもかかわらず1999年、クリントンはNATOに新規加盟三か国を加えた。旧ワルシャワ条約機構のポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーだ。2004年にはさらに7カ国が加わった。うち三か国はバルト諸国で旧ソ連の一部だった。2008年にジョージ・W・ブッシュ大統領がジョージア、ウクライナの加盟を持ち出し、両国も旧ソ連の一部でロシアと国境でつながっている。プーチンはこれに対しジョージアを2008年、2014年と続けて侵攻し、クリミアをウクライナから奪いロシアに併合する反応を示した。

 

 

二番目に、ロシア側から聞かされたのはウクライナ=ロシア関係の理解が大事だという点だ。1922年から冷戦終結に至るまでウクライナはソ連邦の伊津部であった。実際にウクライナはソ連邦立上げの原メンバーでもある。当時はウクライナソビエト社会主義共和国と呼称され、ソ連邦共産党が統治していたい。公式言語はロシア語で、旧ソ連の指導者レオニド・ブレジネフ、ニキータ・フルシチョフの妻の生誕地でもある。

 

三番目に、プーチンが率いる今日のロシアはソ連時代より経済面で好転していることに留意する必要がある。訪ロ中にもモスクワが現在のパリに似てきた、80年代90年代に訪問した当時よりはるかに良好になっているのを実感した。

 

四番目に、米国としてはウクライナ、ジョージア両国のNATO加盟を阻止する立場にないが、両国加盟には28加盟国の賛同が必要で現時点で承認を得られる状態にない。バイデンは少なくともここ数年で実現する状況ではないとロシアに知らせるべきだ。

 

五番目に、ロシアは米国から大国にふさわしい取り扱いを受けていないと感じているようだ。ロシア側政治学者はフランシス・フクヤマがソ連崩壊で冷戦が終わったと宣言したのを冷笑し、逆に最近亡くなったロシア学者スティーブン・コーヘンがロシアを再興させたプーチンを評価しているのを引用していた。

 

バイデン政権にはロシアとこうした視点を忘れず、二国間協議に臨んでもらいたい。ヨーロッパの運命がかかっている。■

 

How Russia Views the Ukraine Crisis | The National Interest

by Lawrence J. Korb 

January 7, 2022  Topic: Russia  Region: Europe  

 

筆者ローレンス・コーブはアメリカ進歩研究所の主任研究員。レーガン政権で国防次官補を務めた。

 

Image: Reuters.


コメント

  1. ぼたんのちから2022年1月15日 9:55

    米国がロシアにNATO不拡大の保証を与えていたとのロシアの主張は、口約束か、出し遅れ証文のようなものであり、国家間の約束までに至らなかったと言うことだろう。
    このような「保証」を今さら主張するなんて、プーチンも老いぼれたか。
    記事の中のケナン等のロシアの取り扱いについての主張は、もしかすると新たな対露関係の糸口になったかもしれない。恐らくこの主張が最善の途であったかもしれない。
    しかし、これは結果論だ。歴史にIFは無く、歴史が将来指し示す結果に至る途はいくらでもある。ケナンの途を進んでも、いずれロシアは、地政学的脆弱性に苛まされ、より危険な存在になっていたかもしれない。
    そして、ロシアの将来は、決して明るくない。最悪は、ロシアの再分解であり、良くてもロシアの影響圏の縮小だろう。つまり、プーチンは、今の方針を維持して自滅の途を歩むか、思い切った転換が必要になると思えるのだが。

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