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ウクライナでロシア軍は「手負いの熊」に。だが「張り子の熊」から軍事大国へ復活の可能性は残る。

 Russian President Vladimir Putin Attends 77th Victory Day With Parade On Red Square

戦勝記念日パレードで赤の広場を行進するロシア軍将校団。 May 9, 2022, in Moscow, Russia. (Contributor/Getty Images)



ノルウェーの国防トップや専門家は、ロシア軍の劣勢ぶり、紛争の長期化、初期の損失分を回復するためロシアに必要な事項を評価している。



クライナ侵攻でロシアの旗色が悪くなっているのを見て、優れていたはずのロシア軍の成績がここまで悪いことにノルウェー軍最高幹部は驚きが隠せない。



 「ロシア軍の状態は、考えていたより悪い。戦車は想定を下回る稼動ぶりだし、兵站にも問題があった」と、ノルウェーの国防長官エイリク・クリストファーセン大将Gen. Eirik Kristoffersenは5月12日、Breaking Defenseのインタビューに答えた。

 しかし、クリストファーセン大将は専門家や他の政府関係者とともに、ウクライナ侵攻から3カ月近くが経過した時点で、紛争はまだ終わったわけではないと警告し、ロシア軍が再集結すると予測し、クレムリンは危険な存在のままと言う。

 「今のロシアは手負いの熊だ」「プーチンには核が残っており、非常に危険だ」。

 プーチンが核兵器を投入しないと仮定するクリストファーセンは比較的冷静に、「ロシアにこの時点で核兵器を使う意志や動機があるとは思えない、敷居はまだ高い」と述べ、ウクライナ情勢に短期間には終わりが見えないとする。

 クリストファーセン大将は、ウクライナの強力な防衛力により、ウクライナ情勢は「長びく戦闘」になると予測している。5月16日にフィンランドのミッコ・ハウタラMikko Hautala駐米大使も同じく、紛争は「長期戦」「膠着状態」になると述べ、「率直に言って、この状況が打破する政治的展開の見通しが立たない」と述べた

 問題は、「ロシア側に、この戦争は今ある資源では勝ち目がないという政治認識が少なくとも今は見られない」ことだとハウタラ大使は言う。そして、「その認識がいつ生まれるかわからない。しかし、私自身の評価では、ロシアはまだ今回の紛争を断念できない。勝ち目がないため、何か別の方法を見つけなければという認識が生まれるまで、多くの時間と、残念ながら多くの犠牲が必要になる」。


しかし、もちろん、ロシアは適応していく


世間では、ロシアの通常戦力は張子の熊だと証明され、旧型装備のウクライナ軍に敗れ、物流と士気の課題に悩まされていると見られている。しかし、専門家や欧州の情報筋は、ロシアの軍事力に関して自己満足に陥るなと、一様に警告を発している。

 国防総省出身で、新アメリカ安全保障センターのヨーロッパ専門家であるジム・タウンゼントJim Townsendは、「最大の過ちは、ロシアを過小評価し、回復復帰することはないと考えることだ」と述べた。タウンゼントは、第二次世界大戦でロシアがドイツ軍にいったん敗退した後、復讐に燃えて戻ってきたことを指摘する。

 「ロシアが回復し、軍事大国として再登場する事態に備えなければならない。時間はかかるかもしれないが、彼らはあきらめないだろう。フィンランドはそれを知っているからこそ、リスクを冒してまでNATOに加盟しようとしている」。

 しかし、ウクライナでのロシア軍のように、空洞化している軍隊を再建するのは難しいと、欧州政策分析センターのスティーブン・ホレルSteven Horrell上級研究員は言う。

 「兵站とメンテナンスに問題があるのは明らかで、腐敗と独裁の結果が表れている」とホレルは言う。「戦闘中に修復するのは難しい。このほかにも、訓練や下士官の不足、中隊や現場将校に必要な戦術的判断の権限がほとんどないなど、システム上の問題がある」「これらは、紛争中に解決できる問題ではありません」「組織的で根本的な欠陥がある場合、戦時中に適応し学ぶことは非常に困難だ」。

 タウンゼントは、ロシアは「何らかの調整」ができるとしながらも、戦場に大きな変化は出ていないと指摘した。

 「戦場で結果が出る前に、多くの変化、しかも深い変化が必要だ」とタウンゼントは続けた。「新兵の士気や訓練から、基本的な装備、豆や弾丸を補給する兵站、トップへの連鎖に至るまで、多岐にわたります。インテル、ドローン、航空支援などの統合は、あまりに広範すぎ、すぐに変更できません」。


クリストファーセン:ロシア軍再建には5年から10年必要


状況を複雑にしているのは、ロシアが失った物資を補充できるのかという問題だ。軍需品の在庫を十分に確保することは、軍隊にとって課題であり、ロシアは供給量を大幅拡大したため装備品在庫が著しく不足していると米国は評価している。

 また、米国主導の制裁により、縮小しているロシアの防衛産業にとって、主要部品の入手は不可能となる可能性がある。

 国防総省のジョン・カービー報道官は5月10日、「ロシアがかなりの速さで精密誘導ミサイルを使い果たしていると評価している」と語った。「プーチン氏にとって精密誘導弾の構成部品の入手が難しくなり、防衛産業で対応が困難になっているのは、制裁の効果が発揮されているからだ」。

 ロシアの通常戦力について聞かれたクリストファーセン大将も「いろいろな見積もりを見たが、これまで失ったものを補充するだけでも5年から10年かかると思う」と答えている。

 この数字にホレルも同意しているが、その結果、ロシアは戦術を変更してくる可能性があると警告している。

ホレルは、ロシアが通常戦力の再建に長い時間を要する場合、近い将来から中期的にどのような行動をとるか、より警戒する必要があると指摘し、「ハイブリッド型能力・活動」が増加する可能性があると予測する。

 「近代化に必要なリソースが乏しいため、極超音速のようなこちらの注意を引くハイエンド能力に重点を置いてくるかもしれない」と述べた。「しかし、ここでも問題は発生するはずだ。とはいえ確率が低いといっても影響が大きくでる脅威には、こちらもリソースを投入して対処が必要となる」。

 最終的に、ロシアがウクライナ紛争を自ら評価すれば、「ほとんど最初からやり直さなければならない」とタウンゼントは指摘する。「そして、そうするだろう」。■


Russia’s military is now a ‘wounded bear.’ Can it revive itself?

By   AARON MEHTA

on May 20, 2022, at 6:19 AM


コメント

  1. 08年のグルジア進攻時にもロシアは思ったより弱いと言われて、14年のクリミア進攻で圧勝して世界を驚かせましたね。

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