スキップしてメイン コンテンツに移動

緊急 南北高官会談をどう読むべきか

今回の会談が時間稼ぎなのか、それとも新しい可能性に道を拓くのか画注目です。しかし、金正恩のイニシアチブが大きく働いているのが気になるところですね。「悪」との共存に耐えられないと考える向きは減っていくのか、それとも事態が急変してふたたび緊張が高まるのか、予断を許さない半島情勢です。しかも「慰安婦」合意の検証結果(これ自体が矛盾した内容でしたが)も同日にソウルで発表されたのは韓国のねらいこそ正気を疑われかねないものになっています。著者は核拡散防止等を目指す民間シンクタンク Ploughshares Fundの主宰者。


North and South Korea Have a Breakthrough. What Next?

南北朝鮮に突破口が生まれた。次は何か
Ri Son Gwon shakes hands with South Korean counterpart Cho Myoung-gyon after their meeting at the truce village of Panmunjom, January 9, 2018. Reuters/Korea Pool

January 9, 2018


1月9日、南北朝鮮は高レベル協議を二年ぶりに非武装地帯で開催した。主要議題は北朝鮮の平昌冬季五輪(2月9日-25日)参加だったが、広範な対話への含みはあきらかだ。
タカ派は協議は「罠」で「くさび」として韓国を米国から引き離す狙いがあると警戒するが、今回の話し合いで核戦争寸前の状況から一歩後退するので歓迎する。開戦を食い止める能力は韓国に十分にあり、同時に米国と強い軍事同盟関係を維持している。
ドナルド・トランプ大統領は南北対話を支持している。ニッキ・ヘイリー米国連大使は金正恩が正月メッセージで韓国へ対話提案を突然し冷笑していたのだが。
トランプも当初はヘイリーと同意見でツイッターで「こっちにも核ボタンはあり、もっと大きく強力だ。しかもこちらのボタンは実際に作動する」と述べ、精神状態への疑いを広く招いた。事実マイケル・ウルフの新著Fire and Furyではトランプの北朝鮮核攻撃の脅かしのエピソードに触れている。
だがトランプはその後、トーンを変え南北協議支持にまわり、自身の功績とまで主張。「会談対話が南北で実現するのは強くしっかりした北に対するこちらの総合「力」があってこそだ。話し合いはいいことだ」
会談からすでに進展が生まれている。北朝鮮はフィギュアスケート男女ペアを参加させると同意し、国際オリンピック委員会は選手登録を延長し南北対話を助ける。開会式では南北朝鮮選手団が一緒に行進する。会談数日前に南北ホットラインが再開した。米国も韓国の要望に応じ大規模米韓演習はオリンピック閉幕まで行わないこととした。
会談は翌日も継続し、北朝鮮は李善権Ri Son-gwon「祖国平和再統一委員会」委員長を送り込み、韓国は統一相趙明均Cho Myoung-gyonを参加させている。両国が副大臣が団長だ。韓国報道機関は今回の協議から金剛山観光やケソン工業団地の再開、離散家族再会へ期待する。両国代表団はすでに各問題で長く交渉の経験がある。
米国内タカ派には今回の協議をチェンバレンのミュンヘン会談に例える動きもあり懸念を深めているが、米政府関係者に南北協議そのものへの反対はない。先週金曜日、レックス・ティラーソン国務長官は協議は「北朝鮮から話し合いたいとの姿勢のあらわれ」と述べ、トランプも日曜日に「まず両国はオリンピックを話す。出発点だ。大きなスタートだ」とツイートした。
同盟弱体化の心配に文在寅大統領は1月5日に「北朝鮮に下手に回ってまで対話を実現するつもりはない。これまでとは違う」と強調していた。保守派の朴槿恵大統領弾劾を受けて当選した文は北朝鮮に接近し懐柔すると公約していた。
北朝鮮に同様の態度を示したのは盧泰愚大統領(2003-08年)で米側にはやはり保守派のジョージ・W・ブッシュ大統領が重しになっていた。盧はブッシュ政権内のタカ派ジョン・ボルトン国連大使やディック・チェイニー副大統領などから目の敵にされていた。
今回も現政権内のタカ派が話合いそのものに反撥していわゆる「血だらけ」軍事対北朝鮮攻撃をリークするかもしれない。作戦は北朝鮮に反撃のチャンスを与えずに「北朝鮮目標を攻撃し平壌を血だらけにしこれまでの行いの代償を支払わせる」。専門家は金正恩の権力基盤が軍事力を背景とするため米攻撃を受けながら反撃の事態が発生しないとは考えにくいと大部分が見ている。
米韓同盟の「くさび」になりかねないのは米軍事行動の構想だ。文大統領は米国による対北朝鮮攻撃リスクを北朝鮮からの攻撃と同等に評価している。「北朝鮮が誤解して核兵器で我が国を脅かす事態あるいは米国が先制攻撃を実施する状況は阻止しなければ」と昨年11月に述べている。
トランプ大統領の精神状態を疑う声が大きくなる中、文他世界各国の指導者は米国指導力のブレに信をおくより自前の外交力の活用で打開策を求めようとしている。
そうなると進行中の南北会談は合同オリンピック選手団や二か月の「オリンピック休戦」より高い次元の意味が生まれそうだ。北朝鮮のオリンピック参加は南の譲歩を引き出して北に有利に働き、国際社会に対して同国の「平和愛好」姿勢を見せつける効果が期待できる。だがそれ以上に今回の突破口からオリンピック閉幕後も北の核・ミサイル問題を正面から話し合う道が開けるのではないか。
現時点ではエスカレーション回避と韓国支援が当座の目標だ。北朝鮮の核・ミサイル問題は米国が加わるまで議題にならないだろう。ジェイムズ・マティス国防長官も1月5日に「南北朝鮮の問題であり当事者でない国は深入りすべきではない」と語っているではないか。
共同軍事演習の実施時期は4月に変更されたが中止ではない。ワシントンが「フリーズにフリーズで対応する」取引(北朝鮮がテストを中止すれば米韓演習も中止する)に合意すれば米朝直接交渉が始まると信じるのであれば危険すぎる。もし北朝鮮が軍事演習の軌道修正含む内容で妥結を目指してこれば、韓国は米国を協議の場に加えるよう主張すべきだ。
果たして米国がテーブルに加わるか、果たして外交で世界最大級の核危機状況が終息するかはすべて米国史上最も予測不可能な大統領の気まぐれな気性と政治生命次第というのが不幸な点だ。■
Joe Cirincione is president of Ploughshares Fund.
Image: Ri Son Gwon shakes hands with South Korean counterpart Cho Myoung-gyon after their meeting at the truce village of Panmunjom, January 9, 2018. Reuters/Korea Pool

コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ