ウクライナ侵攻の様子に固唾を飲んでいるのが台湾だ。米台両国は中国がウクライナ侵攻をどう捉えているのか理解し、影響力を行使する必要がある。
ヨーロッパから5,000マイル離れた台湾で最も深刻にロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け止められている。台湾は次は自分の番ではと心配している。心配は当然だ。ウクライナと台湾は、戦略的には極めてよく似た苦境に直面している。
プーチン大統領がロシアとウクライナの「歴史的一体化」の回復を精神的使命としているのと同様に、習近平主席は中国本土と失われた台湾を再会させることが、自分の地位を確立するのに役立つと考えている。習近平は、プーチンがウクライナについて語るのと同じように、台湾について語り、血のつながりを強調し、中国と台湾は一つの家族だと主張している。習近平は前任者と同様に台湾の主権を全面的に否定している。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻で、中国が台湾統一を急ぐと考えるのは誤りだろう。基本的に、中国指導者の台湾への武力行使は政治的な判断であり、モスクワの行動の影響は受けない。また、この時点で台湾を攻撃すれば、北京とモスクワが権威主義の軸を形成し、協調して行動し始めたと西側が懸念を高め、米国と同盟国が直接介入する可能性が高まることを中国当局は十分に認識している。
しかし、習近平と人民解放軍指導部はウクライナ情勢を注視し、台湾紛争に使える教訓を見出そうとしている。ロシアの戦いぶりは、台湾を支配下に置く中国の決意を揺るがすものではない。北京からすれば、ロシアのウクライナ戦争は、中国が戦争に踏み切った場合の犠牲を現実で予見したものに過ぎない。中国指導部はロシアの失敗を検証し、同じ失敗をしないように作戦計画を修正するはずだ。
台湾や米国も同様に、ウクライナ戦を中国当局者の視点で精査するべきだ。そうすることで、中国側が既に懸念している事実やパターン、抑止力を強化するため台湾が採用すべき能力などが見えてくるかもしれない。モスクワの行動が北京の意思決定に直接影響を及ぼすと考えるのは間違いとはいえ、プーチンのウクライナ攻撃の決断が戦略的失敗であったと中国を説得できる証拠を特定すれば、米台の戦略家が中国による壊滅的な台湾攻撃を阻止するのにも役立つはずだ。
世界は不穏になった
ロシアのウクライナ侵攻は、より危険な時代に突入し、戦争の可能性が高まることに備えるべきと考える中国の指導者の裏付けとなった。習近平は開戦後のバイデン米大統領との電話会談で、「平和と発展の優勢な流れは深刻な挑戦に直面している」、「世界は平穏でも安定でもない」と指摘した。習近平の言葉は、中国が今後も国防予算を増やし続けることを強く示唆し、台湾征服に必要な能力の開発に重点を置いている。
米国が世界トップクラスの経済大国による諸国連合でロシアに厳しい制裁を加える姿を、中国は米国の影響力が低下している証拠と捉えている。北京からすれば、連合に亀裂があれば心強いニュースとなり、米国の緊密なパートナー国の中には、ロシアの戦争犯罪の疑いが報道された後も、ロシアを制裁せず、ウクライナ侵攻を強力に非難しているインドのような国もある。中国は、台湾と外交関係を結んでいる国が少なく、非公式な関係すら希薄な国が多いことから、台湾に対する世界の支援はウクライナ支援よりも控えめになると考えている節がある。また、ロシアは一部国との経済的な結びつきを利用して、対象国を傍観させることに成功しており、中国は、ロシアがはるかに大きな経済力を有しているため、多くの国が台湾を支援することはないと安心しているのだろう。
中国がウクライナ戦争から学んだ最重要点は、米国が核武装した相手には直接介入しないことだ。
また、中国はロシア制裁を研究し、同様の行為に対する自国の脆弱性を減らす措置をとるだろう。第一は、輸出を促進すると同時に内需拡大する「二重循環」戦略を加速させ、中国への経済的依存度を高めながら、他国への依存度を低下することだ。この戦略は、中国経済を制裁から守り、欧米諸国が台湾侵攻を抑止・処罰するために北京に加える制裁が、欧米諸国を傷つけるようにするこ2つの目的を同時に実現する。また、半導体のような重要技術の国産化、米国の金融システムとドルへの依存度の低減、ドルをベースとした国際決済システムSWIFTに代わる決済システムも試みていくはずだ。中国がこの面でどれだけ前進しようとも、中国が世界のサプライチェーンの中心であることを考えれば、米国の同盟国は中国に広範な制裁を課すことをためらうはずと、中国の指導者は確信しているのだろう。
中国がウクライナ戦争から学んだ最も重要な教訓は、米国が核武装した相手国に直接軍事介入することをためらうということであろう。ロシアがウクライナに侵攻する前、米国は「NATOとロシアの直接対決は第三次世界大戦だ」とバイデンが警告し、直接軍事介入の選択肢を外した。中国のアナリストや政策立案者は、ロシアの核兵器が米国の介入を抑止し、核兵器が通常作戦に余地を生み出すと結論付けた。中国の戦略家は、10年以内に少なくとも1000個の核弾頭に達すると推定した核兵器増強に多額の投資を行う中国の決定を正当化すると考えているようだ。また、プーチンの核兵器発言の乱射を目の当たりにした中国は、紛争初期に核警告レベルを引き上げたり、核実験の挙行で、米国による台湾への介入を抑止できると判断する可能性もある。
ロシアの軍事的失策は、中国共産党によるより良い計画に繋がり、台湾制圧の可能性を高めることにつながる。ロシアはウクライナで制空権を確保できず、自軍に燃料、食糧、軍需物資を供給し続けられず、統合軍作戦を効果的に実施できなかった。中国共産党指導部は、豊富な作戦経験を持つロシア軍が決定的な勝利を収められなかったことに衝撃を受けただろう。PLAにとって、これは2015年に始めた軍事改革の正当性を示すもので、統合作戦と兵站に焦点を当て、米国が複雑な統合作戦を行うのを見ながら学んだ教訓を取り入れるものである。同時に、PLAは相当量のロシア軍装備を投入し、ロシアの軍事改革の要素を統合しようとしてきたため、ロシアの苦戦はPLAに台湾との戦いに必要な作戦を実施する準備態勢に疑問を抱かせた可能性がある。また米国はウクライナと同じ兵器を台湾に売却しており、ウクライナはその兵器を大いに活用している。
ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領のウクライナ国民と国際世論を結集する能力は、中国指導者に、紛争初期に台湾の政治・軍事指導部を排除し、台湾人の抵抗の決意を打ち砕くことの重要性を示した。実際には、最低でも台湾の指導者を暗殺し、民衆の士気を低下させ、指揮統制を阻害し、結集する人物の出現を阻止することが必要である。しかし、中国は攻撃に先立って、台湾社会の分裂を煽り、偽情報を流し、台湾と外部との通信を遮断するなど、より広範な作戦を展開すると思われる。中国はすでにメディアへの投資や情報機関の採用を通じて、台湾で親中派を広めるための重要な基盤を確立している。今後もこの非機動戦の要素に磨きをかけていくに違いない。
台湾はどう備えたらよいのか
中国は、ロシアのウクライナ戦争を契機に、台湾紛争への備えを強化しようとしており、台湾も同様に備えるべきだ。明るい兆しもある。ウクライナがロシアとの戦いの初期段階で成功したことを、台湾人多数が街頭に出て祝福し、活動家や評論家は、ウクライナが軍事的に優れた敵を撃退したことで、台湾人も同じことができると信じるようになったのだと論じた。台湾の国防相は、ウクライナの戦術を研究するワーキンググループを設立し、義務兵役延長の可能性を提起しており、世論調査で4分の3以上の支持を集めている。
しかし、これだけでは十分ではない。台湾は非対称防衛戦略を早く採用すべきだ。台湾はウクライナ同様に、携帯型防空システム、無人機(台湾はすでにロシアの侵攻を受けており、優先順位を上げている)、対戦車ミサイルなど、ウクライナで大きな効果を上げた能力の整備に力を入れるべきである。また、対艦ミサイルや機雷の製造も強化する必要がある。台湾軍部隊は、指揮統制を分散化し、小規模部隊でめまぐるしく変化する現地状況を分析し、適応できるシステムの開発が急務だ。
また、よく訓練された予備軍を創設し、領土防衛軍を新設し、広範に社会全体を動員する計画を立てる必要がある。ウクライナの一般市民が砲撃に耐え、多くが武器を手にしたことは、台湾が中国の攻撃に耐えるために必要な回復力の姿を示したといえる。中国が台湾を攻撃した場合、目的は2400万人を永久に支配することであり、それを不可能にするのが台湾国民だ。
台湾が対処すべき決定的な弱点は、紛争時の国民と軍への補給が困難さだ。ウクライナはNATO加盟国と国境を接するため、ロシアの侵攻後も武器や人道物資の供給が可能だが、封鎖の可能性はともかく、侵攻された場合の台湾への供給は極めて困難となりかねない。食糧や医薬品など基本的な物資でさえ、民間船や航空機が乗組員の命を危険にさらして物資を送り続けるとは期待できないため、供給は困難となる。特に米国が台湾に介入してきた場合、台湾軍への供給は限りなく困難になる。
中国は、ウクライナが戦火の中でも欧米諸国からの補給に頼っていることを指摘しており、紛争時には一刻も早く台湾を切り離すことを優先してくる可能性が高い。台湾はそれを見越して、軍需品や石油、食料など重要物資を備蓄し、台湾全土に分散する準備を今から実施する必要がある。つまり、台湾が中国共産党と持続的に戦い、国民が抵抗できるように食糧と健康を維持するため必要な物資は、紛争開始時に台湾になければならない。
米国の抑止力の役割を果たせる
米国は、中国による台湾攻撃を抑止し、中国の侵略に対応するためプレイブックも磨いておかなければならない。制裁の威嚇だけでは、習近平の計算は変えられない。米国は、プーチンがウクライナに侵攻すれば莫大な経済的影響を受けると公式に警告していたが、プーチンは侵攻を実行した。また、中国が世界経済の中心であることを考えれば、中国に広範な制裁を加えるのは容易ではない。
米国は平時から同盟国やパートナー国と制裁パッケージを調整し、中国への経済的依存を減らす方法を検討する必要がある。ロシアに対する制裁の最大の弱点は、ロシアのエナジーに対するカーブアウトである。ヨーロッパの石油・ガスへの依存度を考えれば、(少なくとも紛争の最初の2ヶ月間は)必要だと考えられる。米国は、世界が供給をほとんど中国に依存しているレアアースのような材料の代替品を開発するため、各国と協調して努力する必要がある。
ウクライナ紛争から中国が得た教訓の一つは、米国が台湾に軍事介入することを回避する危険性だ。従って、米国は台湾防衛に直接乗り出すことを明示する戦略的かつ明確化された政策の導入が必要だ。信頼できる軍事的オプションは不可欠であり、これは台湾を国防総省のペースメーカーと見なし、資金を供給し続けることを意味する。米国はまた、台湾との協力を緊密にし、台湾の自衛能力を強化するため、強固な二国間訓練プログラムの確立が必要だ。また、台湾が非対称防衛戦略を策定し、台湾向け武器供与に優先順位をつける支援が必要だ。
ウクライナ危機で、米国の情報機関はプーチンの動きを事前に察知し、情報を同盟国と共有することで、プーチンから戦略的な奇襲の機会を奪い、強力な制裁と軍事支援を中心とする連合体の結束を促した。米国は、中国の計画に関する情報を収集し、先手を打って共有への準備も整えるべきだ。米国は、中国が台湾への攻撃を準備していることを示す初期の兆候を確実に把握するために今から行動し、情報をパートナーと共有し、開戦前から統一対応を準備しなければならない。
ロシアと中国が連携を強めていることから、米国は、台湾をめぐる紛争時にロシアが武器、エネルギー、食糧、情報など、中国に多大な支援を中国に提供する可能性を排除できない。また、ロシアは中国との戦いから目をそらすために、サイバー攻撃や欧州の不安定化を狙ってくることも想定の必要がある。中露両国は2月4日の注目すべき共同声明で「無制限」の友好関係を確立し、「核心的利益を守るため強力な相互支援」を再確認し、ロシアは「台湾は中国の不可分の一部である」ことに同意している。ウクライナ戦争でロシアを全面的に支援した中国は、台湾紛争で恩返しを期待するだろう。
米国と台北が抑止力強化のために取るべき行動は、回避したい紛争を不用意に引き起こさないよう、慎重に行う必要がある。まず、台湾との連携を強化する場合、公の場には出さず、静かに行うべきだ。米国と台湾は、台湾の戦闘能力をいかに向上させるかに焦点を当て、象徴主義を排するべきである。米国は内々に、これらの動きが米国の一つの中国政策に合致し、中国の軍備増強によって台湾海峡のパワーバランスが損なわれていることへの対応であることを中国に強調すべきだ。米国は台湾独立を支持せず、台湾海峡の現状維持が最大の関心事であると公の場で強調すべきだ。
ウクライナ戦争は、中国、台湾、米国各国に重要な教訓を与えている。どちらがより巧く適応するか次第で、抑止力が通用するか、世界を根底から変えかねない紛争になるかが決まる。■
What Is China Learning From Russia's War in Ukraine? | Foreign Affairs
America and Taiwan Need to Grasp—and Influence—Chinese Views of the Conflict
By David Sacks
May 16, 2022
CCP中国の台湾侵攻の軍事的足かせは、地政学的には台湾海峡であり、そして何より経験である。台湾に侵攻するためには大掛かりな強襲上陸が必要であり、PLAはそのような軍事行動を起こしたことが無い。いや、PLAは、制海権を取るための大規模な海上・海中戦、制空権を得るための大規模な航空攻撃を行ったことさえ無い。それどころか、陸軍でさえ中越紛争の敗戦以来、大規模な軍事行動を起こしたことが無い。つまりPLAは、素人の巨大な軍隊なのだ。
返信削除それでも台湾侵攻のマネ事はできるし、台湾に深刻な危機を与えられる。何より核で脅せば、米国や日本は手を出さないかもしれず、現代のチェンバレンである老いぼれバイデンは、ウクライナ戦争でそうであり、記事にあるように、制裁で誤魔化し、「第3次世界大戦を防ぐため」指をくわえるだけかもしれない。そうなればCCP・PLAは、ゆっくり台湾を料理できるだろう。その結果、台湾独立派は、収容所で粛清されるだろう。第3次世界大戦は既に始まっていると思えるのに、米国のこのような体たらくは頂けない。
結局のところ、台湾人民がPLAに立ち向かうしかないのだ。そうすれば、台湾をCCP中国に占領されたならば、即、地政学的危機に陥る日本が開戦を決意するかもしれず、それを見た米国も戦争を決意するかもしれない。幸いにも台湾防衛のヒントは、ウクライナ戦争に多くある。PLAを台湾海峡で葬るのは、それほど難しいことでないかもしれない。
ところで、この記事の筆者は、トランプの言うディープステートの黒幕であるCFRに所属し、フォーリン・アフェアーズはCFRの機関紙である。そしてCFRは現政権を牛耳っている。この記事をただの政治評論と考えない方が良い、と言うことである。