2026年8月30日日曜日

ハインラインの侵略SF「人形つかいども」の私家版翻訳 第17章―おれはカンザスシティに侵入したが....

 

第17章

カンザスシティは古くからの街だ。爆撃を受けても無傷で残っていた――かつてのインディペンデンスがある東側地区を除けば。その部分は一度も再建されていない。南東部からなら、スウォープ・パークのあたりまで、ほぼダウンタウンのすぐそばまで車で乗りつけることができる。街の中心部に入るための駐車料金を払うか、通行料を払うかの選択を迫られることもない。空から入るという手もあった。ミズーリ川北側のランディング・フラッツに着陸して地下トンネルで街に入るか、あるいはメモリアル・ヒルの南にあるダウンタウンのプラットフォームに降り立つかだ。だが、そのどちらもやめにした。自分の車は手元に置いておきたかったが、かといって預かりシステムを通して引き取るような真似はごめんだった。いざというとき、駐車場の係員に身分証コードを見せながら銃をブッ放すなんて芸当はできやしない。いざというときのトンネルもごめんだし、発着プラットフォームのエレベーターもまっぴらだ。あんなところに閉じ込められたらおしまいだから。

率直に言って、本当は街に足を踏み入れたくもなかった。おれは国道40号に車を乗り入れ、マイヤー・ブールバードの料金所へ向かった。街の通りを走るという、怪しげな特権のために通行料を払う車の列はかなりの長さだった。後ろに別の車がぴたりと付けた途端に、ひどく窮屈な気分になり、車をパーキングに置いて公共の交通機関で中に入るべきだったと激しく後悔した。

だが、係員はおれを一瞥もせずに通行料を受け取った。おれの方はしっかりそいつを睨みつけたが、操られているのかどうか見分けがつかなかった。安堵の息を漏らしながらゲートを通り抜けた――その直後、まさにその向こうで止められた。

目の前にバーが下りてきて、かろうじて車を急停止させると、開け放していた窓から警官がひょっこり頭を突っ込んできた。

「セーフティチェックだ」とそいつは言った。「降りてくれ」

おれの車はたった今検査を受けたばかりだと抗議した。

「だろうね」と警官はあっさり同意した。「だけど、街全体で交通安全運動中なんでね。これが車のチェック票だ。バーのすぐ先で受け取れ。さあ、車から降りてあの扉に入るんだ」

そいつは縁石から数歩離れたところにある低い建物を指さした。

「何のために?」 「視力と反射神経の検査」とそいつは説明した。「ほら、早くしろ。列が詰まっている」

脳裏に、赤く光るカンザスシティの地図が浮かび上がった。この街が「制圧」されているのは確実だ。ということは、この物腰の柔らかい警官も、ほぼ間違いなく寄生虫に操られているのだろう。そいつの背中を確かめる必要すらない。だが、ここでそいつを撃ち殺し、その場から緊急離陸でもしない限り、従うほかに道はなかった。

普通の、ありふれた警官相手なら、車のチェック票を手渡される際に厳禁を滑り込ませて、露骨に買収を試みるところだ。だが、タイタンどもは金なんて使わない。それとも使うのだろうか?

おれは文句を言いながら車を降り、その建物へゆっくり歩き出した。近くの扉には「入口」と書いてあり、遠くの端には「出口」と書かれた扉があった。おれが近づくと、そこから男が出てきた。何を見せられたのか、男に掴みかかって問い詰めたくてたまらなかった。

そこは、旧式の電源なしの扉がついた仮設の建物だった。足先で扉を押し開き、入る前に両脇と上を素早く見やった。安全なように思えた。中には何もない前室があり、その向こうに開いた扉があった。

中の誰かが「入れ」と声をかけた。

状況が許す限り慎重に、おれは中に入った。男が2人いた。どちらも白衣を着ていて、1人は医者の検眼鏡を頭に固定していた。男は顔を上げ、きびきびと言った。 「1分もかかりません。こちらへどうぞ」

奴はおれが入ってきた扉を閉め、ラッチがカチッと鳴るのが聞こえた。コンスティチューションクラブで用意した仕組みより洗練されていた。時間さえあれば感心していたところだ。

長いテーブルの上に並べられていたのは、マスター用のトランスファー・セルだった。すでに開封され、温められていた。2人目の男が1つ――おれ用のものに違いない――を手にしていて、中に潜むナメクジが見えないように、自分の方へ傾けて保持していた。

トランスファー・セルは、被害者に警戒心を抱かせることはない。医療関係者は、素人目には奇妙に映る道具をいつも手元に置いているものだからだ。そのうえで、おれにごく普通の視力検査器のファインダーに目を押し当てるように促すというわけだ。「医者」はおれをそこに縛り付け、それと気づかせずに目隠しをした状態で検査の数字を読ませている間に、「助手」がマスターを装着させるという寸法だ。暴力も、手落ちも、抗議の隙もない。おれ自身の「勤務」のときに学んだ通り、被害者の背中を裸にする必要すらなく、ただ素首にマスターをタッチさせ、そのあとで新しい仲間自身に服を整えさせて隠させればいいだけなのだ。

「すぐこちらへ」と「医者」が繰り返した。「接眼部に目を当ててください」

猛烈なスピードで動き、おれは視力検査器が据え付けられたベンチへと歩み寄り、従うふりをした。そして、突然くるりと向きを変えた。

助手が間合いを詰めていた。手にはセルが用意されている。おれが振り向くと、奴はそれをサッと背中側に傾けた。

「先生」とおれは言った。「コンタクトレンズをしているんですが外したほうがいいですか?」 「いやいや」と奴は苛立ったように言った。「時間を無駄にしないで」 「だけど先生」とおれは抗議した。「フィットしているか見てほしいんですよ。左のにちょっと問題があって――」

おれは両手を上げ、左目の上下のまぶたをぐっと引き下げた。「ほら見えますか?」 奴は怒ったように吐き捨てた。「ここはクリニックじゃないんです。さあ、いいから――」

2人とも手が届く距離にいた。おれは腕を大きく振り下ろし、強力なベアハグで2人まとめて抱え込むと、それぞれの両肩甲骨の間に爪を立てて掴みかかった。

両手でコートの下の柔らかくドロリとした感触を捉えた瞬間、その触感に激しい嫌悪感が走って身震いした。かつて路上で車にハネられた猫を見たことがある。あわれなその生き物は、背中を逆側に弓なりにし、手足を四方へバタつかせながら、真上に4フィートほど跳ね上がったものだ。

この不運な2人の男もまったく同じ動きをした。まるで肉体のあらゆる運動細胞が一斉に刺激されたかのように、すさまじい痙攣で全身の筋肉をねじ曲げたのだ。――おそらく、おれがマスターを掴み潰したときに起きたのは、まさにそれだったのだろう。

2人を抑えつけたままにしておくことはできなかった。腕の中から跳ねるように抜け出し、床にドサリと倒れ込んだのだ。だが、抑えつける必要などなかった。あの骨を揺らすような最初の痙攣のあと、奴らはぐったりと脱力し、意識を失い、おそらく死んでいた。

扉をノックする音がした。

おれは大声で叫んだ。「ちょっと待って。医者は取り込み中だ」

ノックが止まった。扉がしっかり閉まっていることを確認してから引き返し、「医者」の体を覗き込んでコートをめくり、マスターに何をしでかしたかを確認した。奴のマスターは破裂したぬめりの塊と化し、すでに悪臭を放ち始めていた。

もう1人の男のそれも同じだった。この事実はおれを大いに満足させた。奴らがすでに死んでいなかろうと、宿主ごと殺さずにナメクジだけ焼き払う自信がなかった以上、とにかく焼き尽くすつもりだったからだ。

男たちはそのままにしておいた――生きようが死んでいようが、あるいは再びタイタンどもに捕らえられようが知ったことではない。助ける方法などなかったのだ。

セルの中で出番を待っているマスターどもは別の話だ。ファンビームと最大出力のエネルギーで、わずか数秒でまとめて焼き払ってやった。

壁際に大きな木箱が2つあった。中にマスターが入っているかどうかは分からなかったが、そうでないと思う理由もなかった。木材が炭化するまで、ビームで徹底的に撃ち抜いてやった。

扉をノックする音が再び響いた。

慌てて2人の男を隠す場所を探したが、どこにも見当たらない。そこでおれは、古典的な軍事機巧を実行することにした。出口から出ていこうとしたそのとき、何かが足りないような気がした。

ためらって、もう一度あたりを見回した。部屋はほとんどからっぽで、目的に適うようなものは何も見当たらなかった。「医者」か助手の服を使う手もあったが、奴らに触りたくはなかった。

そのとき、ベンチに置いてある視力検査器用のダストカバーが目に入った。

おれはシャツを少し脱ぎ捨て、ダストカバーを引っ掴むと、丸めて背中側の肩甲骨の間にねじ込んだ。シャツの襟を留め、ジャケットをきっちりジッパーで上げると、ちょうどいい具合のふくらみができた。

そしておれは外へ出た。――「見知らぬ旅人、自分が造りもしない世界へ怯えながら」

おれはかなりいい気分だった。

別の警官がおれの車のチェック票を受け取った。そいつは鋭い視線をおれに向けたが、車に乗り込めと合図した。その通りにすると、警官が言った。 「警察本部へ行け。市庁舎の地下だ」 「『警察本部、市庁舎』だね」とおれは復唱し、アクセルを踏み込んだ。

その方向へ走り出し、ニコルズ・フリーウェイへ乗り入れた。

交通量がまばらになる区間に差し掛かると、誰も気づかないことを祈りつつ、ボタンを押してライセンスプレートを切り替えた。料金所で晒していたプレートについて、すでに手配書が出回っている可能性は十分にあった。車のカラーリングやボディラインまで変えられたらよかったのだが。

フリーウェイがマギー・トラフィック・ウェイに差し掛かる手前で下りランプに進入し、その後は住宅街の裏道をひた走った。

時間はゾーン6の1800時。あと4時間半でワシントンに到着しなければならない時間だった。(つづく)



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