2026年10月3日土曜日

中国の情報戦に直面してきた台湾の経験からNATOが学べることがある(在フィンランド台湾代表はヘビーメタルバンドから立法院議員を務めた人物なので日本との音楽を通じた交流にも触れています)

 

ヨーロッパは中国の情報戦に対抗してきた台湾の経験から学べる

What Europe Can Learn from Taiwan’s Information War


在フィンランドの台湾代表フレディ・リムは、世論の撹乱を狙う中国の取り組み、欧州に対し使用するためロシアと共有した手法について台湾の経験を本誌に語った


台湾は、1949年の中国内戦終結以来、80年近くにわたり中国の侵攻という脅威に立ち向かってきた。軍事的脅威が依然として深刻である一方で、一部の台湾当局者は、台湾島内、中国本土、米国や世界中で台湾の政治的地位に対する世論を形成する「情報環境」が、かつてないほど危険的水準になっていると警告している。

「もちろん、我々は数十年にわたり軍事的脅威に直面しており、中国は常に台湾に対する軍事力を増強しています」と、台湾のフィンランド常駐大使であり、元立法院議員のフレディ・リム・チオンツォは、ヘルシンキで開催された『欧州・世界台湾人協会連盟』の年次総会において、本誌取材に対し語った。「しかし、ここ数年間は、情報戦の方が深刻になっています。」

リムは、この変化の一因として、人工知能(AI)やその他の新技術の進歩を挙げている。これらにより、中国は説得力ある情報を大規模に作成・拡散することが容易になり、台湾国内で親北京派の世論支持につながる偽りの支持基盤を築こうとしている。

「AIや新技術の登場により、中国が台湾に対してこうした情報攻撃をはるかに容易に仕掛けられるようになったことで、事態は以前よりはるかに深刻になっていると感じます」とリムは述べた。同氏は、問題は単に北京が虚偽の情報を生成していること――これは両岸関係において目新しいことではない――ではなく、かつてはプロパガンダを識別しやすくしていた兆候が消えつつある点にあると強調した。

「10年前は、相手が使用する漢字や、用いる物語の語り口、物語の描写の仕方を通じて、誤情報や相手側からの情報戦を識別し、見分けるのは非常に簡単だった」とリムは述べた。

今日では、AIによってこうした違いがはるかに微妙になっているとリムは主張した。台湾向けにプロパガンダを作成しているものの、台湾の話法に不慣れな中国政府の工作員は、AIチャットボットにメッセージを書き直させ、台湾の現地語のように見せかけることができる。

この問題に対する明確な解決策はないとリムは述べた。台湾の一般市民の間で情報リテラシーを広め、批判的に考え、情報源に疑問を持つよう促すこと以外にはないという。

ロシアと中国によるハイブリッド戦争戦術の共有

台湾での経験には、ヨーロッパにおける明確な類似例がある。ロシアと東欧の同盟国は、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に対し同様の攻撃を行い、特に中東欧において、内部分裂を煽り、同盟への疑念を植え付けようとしてきた。

最も注目を集めた反欧州のメッセージキャンペーンの一つは、2021年に起きた。ロシアと同盟関係にあるベラルーシが、中東から数千人の移民をベラルーシ国内へ流入させる手助けを行い、彼らをポーランドやシェンゲン圏へ不法入国させることを意図していた。この危機は、クレムリンにとって事実上「ウィンウィン」の状況であった。クレムリンは、2010年代半ばの中東からの移民の波の際に他の欧州諸国で起きたように、新たな移民の波がポーランドで政治的緊張を引き起こすことを理解していた。ワルシャワが国境管理の強化を通じて移民の流入を防ぐ積極的な措置を講じると、ロシアとベラルーシの情報メディアは方針を転換し、ポーランド政府を冷酷で非人道的であると描写し、移民に対する人種差別を非難した。

このキャンペーンは、ポーランドの国境防衛を国際的な政治的負担へ転換することを狙っていた。決定的なのは、これが2021年秋、ロシアがウクライナとの国境沿いに数十万の兵力を配置していた時期と重なって展開された点である。この2つの出来事のタイミングが偶然の一致である可能性はほぼ皆無であり、移民を動員したこの行動の目的は、ウクライナ侵攻に先立ち、ポーランドの注意をそらし、国内を不安定化させ、統一的な対応能力を阻害することにあったと考えられる。

このロシアによるハイブリッド戦争は、ある教訓を示した。すなわち、情報攻勢は、はるかに大規模な対立に先立ち、標的の注意をそらし、その力を弱めるよう設計され得るということだ。リムは、台湾に対する中国の準備と、東欧に対するロシアの準備との間に明らかな類似点があると指摘した。

「彼らがこの件で協力しない理由は考えられない」と彼は述べた。「彼らは間違いなく互いに協力している。常に戦術を共有しているのだ。」

重要なのは、こうした戦術がプロパガンダだけに留まっていない点だ。リムは、ロシアと中国の艦船がそれぞれの活動海域で破壊工作を行ってきたことを指摘した。特に、バルト海や台湾海峡で海底通信ケーブルの上に錨を引きずり、ケーブルを損傷させ、地域協力の基盤を損なった事例が挙げられる。

ロシアと中国が協力しているのなら、台湾と東欧も協力すべきではないのか?

これは、欧州ではロシアから、インド太平洋地域では中国から圧力に直面している国々にとって、実践的な問いを投げかける。すなわち、危機が発生してから対応しするのではなく、危機が発生する前に積極的に教訓を共有できるかどうか、ということだ。

リムは、台湾と欧州の間にはすでに相当な協力関係があるものの、さらに多くのことができると指摘している。

「欧州や当地域の最前線にある国々との間には、多くの交流や協力がある」とリムは述べた。「しかし、政府による公式な関与など、強化できる分野は多くあると確信している。」

リムはフィンランドにおける台湾の外交拠点を率いているが、フィンランド政府は台湾を承認しておらず、台湾との外交関係も持っていない。中国は世界中で台湾の非承認を積極的押し進めており、台湾に好意的と見なされる国々に対しては貿易関係を断つと脅している。2021年末、近隣のリトアニアが「台北」ではなく「台湾」という名称で台湾の代表事務所を開設したことを受け、中国は自国の大使を召還し、バルト三国の一つのこの小さな国に懲罰に的な経済措置を発動した。

北京の強硬な手法の結果、台湾と欧州間の協力は、通常、公式ルート外で、国会議員、シンクタンク、学者、市民社会を通じて進められている。リムは、こうした関与は価値があるものの、不十分であると主張した。

「非政府レベルでの関与は、常に時間を浪費し、非効率的な関与になりがちなので、もっと多くの取り組みが必要だ」と彼は述べた。「民間セクターからの情報や重要な議論、協力内容を常に政府に伝達しなければならず、関与に時間がかかる。」

リムによれば、同様の問題は、防衛・安全保障上の連携や、ロシアと中国が共有するハイブリッド戦争戦術をめぐる協議にも必然的に波及するだろうという。

またリムは、台湾には学ぶべき点が多いと推測した。欧州の前線諸国は、台湾とは異なる形で数十年にわたりロシアの脅威に備えてきたからだ。同氏は、冷戦時代のフィンランドの歴史を例に挙げた。当時、フィンランドはNATOに加盟せず、ロシアの侵略に対する抑止力として独自の防衛力を強化しようとしていた。

こうした準備の結果、フィンランドは軍事防衛、市民の備え、インフラ、緊急時対応計画、そして国民のレジリエンスを、国家安全保障の相互に関連した要素として扱う包括的な国家安全保障体制を確立した。このモデルは台湾でも注目を集めており、リムはこれを東アジアの国々にとっての模範として称賛した。

「[フィンランドは]非常に充実した民間防衛能力を持っており、高度に発達した避難所も整備されている」と彼は述べた。「 ここ数年、台湾でも防空壕の改善に取り組んだり、新たな防空壕の建設を計画している。フィンランドの経験は台湾に取り入れるべきだと確信している」

防災準備の観点から、リムは、台湾政府が市民の緊急事態への備えを支援するための資料の作成に着手していることを指摘した。その中には、地震などの自然災害や敵の活動に対する備えを概説した、台湾の各家庭に無料で配布されている「リトル・オレンジ・ブック」がある。

「北欧諸国では、すでに何十年も前から市民向けパンフレットが配布されているため、その経験も取り入れるべきでしょう」

その意義は、単なる緊急時の指示にとどまらない。事前に備えが整っている社会は、一旦危機が訪れても、パニックに陥ったり、操られたり、不安定化させられたりしにくくなる。2021年のポーランド事例が示したように、安全保障上の危機は、瞬く間に世論をめぐる争いへ発展しうる。台湾は、はるかに大規模かつ長期にわたる形で、同じ問題に直面している。

リムの外交的アプローチ:ハードロックとソフトパワー

政府間交流に制約があることを踏まえ、リムは社会間のつながりの重要性を強調した。その多くは、政治の領域を完全に超えたところにある。

政府や外交の世界に入る前、リムは台湾のヘビーメタルバンド「Chthonic」のフロントマンとして国際的に知られていた。音楽の経験が、台湾が海外とどのように関係を築くべきかという彼の見方を形作ってきた。

「私たちが話していたような難しい話題はすべて、頭で考え、理屈で議論してきたものです」とリムは述べた。「しかし、音楽や文化は互いの魂に深く触れ、結びつけることができるのです。」

リムは、台湾国内で日本の音楽が人気を博していること、またその逆も同様であることを踏まえ、台湾と日本の関係を例に挙げた。

「将来、台湾と欧州諸国の間でも、そのような関係が築かれていくことを願っています」と彼は付け加えた。

米台関係の現状は?

台湾の対外関係における最後の重要な要素は、最も重要な安全保障パートナーである米国だ。習近平国家主席が先ごろホワイトハウスを訪問した際、ドナルド・トランプ大統領に対し、台湾との関係を断ち切り、台湾の安全保障に関する米国のこれまでの声明を撤回するよう圧力をかけたとされるが、トランプ大統領はこれを拒否した。

リムは、台湾の政治システムの内部から米台関係を注視してきた。2016年から2024年にかけて立法院議員を務めた間、国防・外交委員会に所属し、トランプ政権、バイデン政権、そしてトランプの2期目の政権を通じて、米台関係がどのように発展していくかを目の当たりにした。本人の全体的な印象は肯定的なものだった。

「トランプ政権第1期からバイデン政権、そして現政権に至るまで、台湾と米国の関係がどのように強化されてきたかを目の当たりにしてきた」とリムは述べ、政権交代に伴う混乱ではなく、一貫性を見出してきたと指摘した。「外から見ると、ここ数年は波乱に満ちていたように見えるかもしれないが、実際には方向性はほぼ一貫していたと見ている」

リムのコメントから得られるより広範な教訓は、台湾の安全保障を欧州の安全保障から切り離すことがいっそう困難になっている点だ。台湾に対して用いられる情報戦は、台湾海峡内に留まるものではない。いかなる攻撃的な国家による人為的な安全保障上の問題も、国際世論を形作ろうとする持続的な試みを伴うことになる。これは重要インフラや市民の防災体制にも当てはまる。したがって、欧州と台湾にとって実践的な機会は、それぞれの経験を相互に補完し合うものとして捉えることにある。

台湾は、はるかに大きな権威主義的な隣国からの圧力の下で生きる方法を、数十年にわたり学んできた。一方、ヨーロッパはロシアからの持続的な圧力に社会が備える方法を再学習している。協力の価値は、まさにその違いにあるのかもしれない。台湾は、数十年にわたり「グレーゾーン」の圧力と共存してきた社会からの教訓をヨーロッパに提供できる一方で、フィンランドやポーランドといったヨーロッパ諸国は、包括的な安全保障に関する自らの経験を台湾に提供できる。■

著者について:フィリップ・スティチンスキ

フィリップ・スティチンスキ は、世界政治研究所(Institute of World Politics)傘下のインターマリウム研究センター(Center for Intermarium Studies)の特派員である。TVP Worldの共同創設者であり、同局では編集長を務め、中東欧(CEE)地域における先駆的な英語メディアチャンネルの立ち上げに貢献した。彼の記事は、『イスラエル・ハヨム』、『ザ・キーウ・ポスト』、『ザ・デイリー・シグナル』などの主要メディアで取り上げられている。ジャーナリズムおよび安全保障に関する議論への貢献が評価され、ポーランドジャーナリスト協会から特別賞を受賞した。また、ロシアのプロパガンダに対抗した功績により、ウクライナからストラトコム(Stratcom)感謝状を授与された。フィリップは、イスラム教徒が多数を占める国々のキリスト教コミュニティを支援する「オール・ブラザーズ財団(All Brothers Foundation)」を共同設立した。彼のキャリアは、ジャーナリズム、国家安全保障、そして信仰に基づくアドボカシーを結びつけ、文化や国境を越えた対話を促進している。

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